ハシビロコウ
Shoebill Stork (Balaeniceps rex)

鋭い眼光。
木靴のような大きな嘴。
不釣合いなほどに長い足指。

見れば見るほど奇妙な外見を持った鳥、
それがハシビロコウだ。

重たげな嘴は湿地の魚を狩る為の強力な武器だと言う。
よく見ると、嘴の縁は鋭く、まるで剃刀のようだ。
あれで噛み付かれたら、小魚など一撃で絶命してしまうだろう。

ある日、そのハシビロコウの一羽が、
同居しているフラミンゴの檻のへりにある植え込みに上っているのを見た。
あの長い足指で、器用に細い枝を渡り歩き、
大きな翼でバランスをとりながら、ひょこひょこと
植え込みの上を歩き回っていた。

その姿に、私の脳裏に「アラビアン・ナイト」の一情景がよぎった。
飛べば空を遮るほど大きく、その嘴はゾウを一飲みにし、
落とした羽一枚がヤシの葉よりもずっと大きい、怪鳥・ルフ。

ハシビロコウのその姿は、正に小さなルフそのものに見えた。
<データ>

*分類*
鳥綱 鸛鷺目 ハシビロコウ科
*分布*
アフリカ(コンゴからウガンダに掛けて)の河川・湖沼流域
*大きさ*
全長1.2〜1.5m、体高1〜1.2m、翼開長2.5m前後、体重6kg以下
*食性*
肉食。カエル等の水棲動物、ナマズ等の魚類を捕食。
殊に泥中のハイギョ(肺魚)を狩る技術に掛けては並ぶ者なし。
*備考*
アフリカの沼沢地に特産する、非常に特殊な水鳥。
サギ類とコウノトリ類の特徴を併せ持ち、独自の科を設けられている。
木靴を思わせる巨大な嘴は、泥中の獲物を素早く狩る為の適応。
普段は長い首をたわめ、嘴を胸部に乗せるようにして、身じろぎせずに休息している。
単独か若しくはつがいで行動し、主に夕方から夜に掛けて活動する。
パピルスやアシの茎を押し固めて大きな巣を作り、夫婦交代で抱卵。
気温の高い地域で暮らす故か、産み落とした卵に時折水をかけて冷やそうとする習性がある。
鳴き声は殆ど出さず、個体間のコミュニケーションは
嘴を激しく打ち鳴らして(クラッターリングと言う)行う。