スイギュウ
Asiatic Water Buffalo (Bubalus bubalis)

多摩動物公園に遊びに行った時の事。

スイギュウが飼われていると言うので、早速その飼育施設に出向いた。
しかし、指し示された場所には濁った水が満たされたプールが在るばかりで、
何処にもスイギュウの姿は見えない。

諦めて次の場所へ移動しようとした時、プールの水がごぼごぼと波立ち始めた。
加えて高々と響く噴気音。
「!?」
驚いて振り返ると、濁った水の中からぼっかりと姿を見せた者がある。
スイギュウだった。
どうやら水浴びの最中だったようだ。

スイギュウは大量の水が無いと生きていけない動物である。
彼等の体は体温を調節する機能が他の動物に比べてあまり発達しておらず、
体温が上昇した時は水に浸かって体を冷やさなければならないからだ。
若し、水浴びをさせずにいると、体温が上昇しすぎてオーヴァーヒートするか、
あるいは体を冷やしたい一心で大暴れして水を探そうとする。
水を求めて暴れるスイギュウの恐ろしさは、空腹のトラにも勝るほどのモノと言う。
アフリカでも、「岡に上がったスイギュウとカバはライオンよりもずっと恐ろしい」
と言い習わされているそうだ。

思わぬ場所からの登場に度肝を抜かれた私を尻目に、
スイギュウは満足げに水から這い上がり、ぶるぶると体を震わせる。
その体にあたる風は、さだめし快適なモノであったろう。
<データ>

*分類*
哺乳綱 偶蹄目 ウシ科
*分布*
野生種はネパールからインドシナ、インドの沼沢地帯。家畜種は南アジア、ヨーロッパ、アフリカを中心に主に南半球で飼育される。
*大きさ*
頭胴長2.5〜3m、尾長60cm〜1m、肩高1.5〜1.8m、体重600〜800s(最大1.2tの記録あり)
*食性*
植物食。イネ科の草本が主食。
*備考*
大型のウシ類で、差し渡しが2mに及ぶ三日月型のツノが特徴的。
黒味がかった灰色の体をしており、成獣は幼獣に比べると被毛が少ない。
多数の群れで暮らし、住環境として水が多くある沼地を好む。
気温の高い時や虫の害が酷い時など、一日の大半を水中で過ごす事も稀ではない。
体力があり役畜としての能力が高い上、質の良いミルクが取れる為、古くから飼育され家畜とされてきた。
現在野生種は数が少なく希少だが、家畜種は南アジア、ヨーロッパ、アフリカなどで多く飼育されており、
オーストラリアでは飼育下から逃げ出したスイギュウが帰化している。
日本では沖縄とその周辺で家畜として珍重される他、各地の動物園でも飼育されている。