オオワシ
Stellers Sea Eagle (Haliaeetus pelagicus)

日本最大の猛禽類・オオワシの事を、一部の人間は「天ちゃん」と呼ぶ。
彼等が「天然記念物」である事からの命名であると言う。

嘗てアイヌの人々は、彼等を活きたまま捕らえ、
その純白の尾羽を引き抜いてまた野性に返すと言うやり方で、
彼等の尾羽を採集、矢羽などに加工していた。
その時は、彼等の日本における個体数は相当なものだったろう。
彼等が天然記念物にまで祭り上げられたのは、
明治時代以降、日本に発達した銃火器が多くもたらされ、
数多の鳥達がその火花の犠牲になった後の話であった。

上野動物園の一角・不忍池の一部にぽっかりと浮かぶ小島に、
翼を散弾銃で射貫かれ、飛べなくなったオオワシが飼育されている。
時折、彼は傷ついて萎縮した翼を広げ、
自在に空を飛ぶカワウ等の水鳥達を羨ましげに眺めている。
その目には何処となく輝きが無く、佇まいにも今一覇気が感じられない。

「彼等を密猟しようとする不届き者が後を絶たなくてね…」
飼育係さんが深刻な顔で話してくれた。

今日もオオワシは、私の前で傷ついた翼を広げて見せる。
まるで「貴様の仲間に鉄砲で撃たれて、俺はこんな浅ましい姿になったんだ」
とでも言いたげに…。
<データ>

*分類*
鳥綱 鷲鷹目 ワシタカ科
*分布*
オホーツク海沿岸(北海道を含む)
*大きさ*
全長90〜105p、翼開長2.2〜2.5m、体重4〜9s。メスの方が大きい。
*食性*
魚類中心の肉食。サケやマス等の川魚を特に好む。
時にはカモ等の水鳥やウサギ等の小獣も狩る。
*備考*
最大級のウミワシ(魚食性の猛禽類)。日本で確認できる猛禽としては最も大きい。
日本に於いては厳冬期に飛来・越冬する冬鳥。
白と黒褐色の羽毛、そして嘴と脚部の黄橙色のコントラストが美しい鳥である。
流氷が解ける春先にカムチャツカ半島以北に帰り、営巣・育雛をする。
海沿いの巨木に枯れ枝を集めて巨大な巣を作り、毎年枝を継ぎ足して使用する。
剥製や矢羽用の密猟が後を絶たず、個体数は減少気味。
1970年に天然記念物、1984年に特殊鳥類の指定を受けた。
猛禽類としては比較的温和で、飼育下では他の鳥類に対し寛容な様子を見せる事もある。