センザンコウ
Chinese Pangolin (Manis pentadactyla)

昔、北海道の函館に在住していた頃の事。

函館から車で数時間かかる奥深い山間に、
万病に効く霊水が湧くと評判の大きな霊場があった。
年に一度くらい、日曜日の早朝、まだ日も昇らぬうちに家を出て、
その霊場に有難い霊水を貰いに行くのが、嘗ての我が家の恒例行事であった。

その霊場の建物はあちこちに龍や鳳凰などの霊獣の彫刻で満ち溢れ、
よくある霊場にありがちな窮屈さはあまり無かったように記憶しているが、
それでも玩具ひとつない大きな建物は子供にとっては退屈極まりなかったのだろう。
幼い私はよく霊場の隅々まで“探検”を試みて親に叱られたものである。

ある年の霊場来訪の折の事だ。
恒例行事の如く霊場の“探検”を試みた私は、戸棚の隅に見慣れない動物の剥製を見つけた。
大きさはネコより大きいくらい、全身を褐色の鱗に包まれた、
哺乳類とも爬虫類ともつかぬ奇妙な動物。
私を捕まえに来た親と霊場の管理人さんに「あれ、なに?」と聞くと、管理人さんは笑顔で
「あれはセンザンコウと言ってね、中国の山の中に住む珍しい動物なんだよ」
と、教えてくれた。

センザンコウの鱗には薬効がある、と古来中国では信じられている。
それ故に過剰な狩猟圧に晒され続け、今やセンザンコウは稀少な動物になってしまった。

霊場と言う、通常なら殺生を忌む環境にセンザンコウの剥製があったのも、
恐らく、その薬効と関連した要因に拠るものだったのだろう。

…以上、動物園で生きたセンザンコウに対面した折、
ふと思い出した昔話である。
<データ>

*分類*
哺乳綱 センザンコウ目 センザンコウ科(後述参照)
*分布*
中国南部から台湾、インドシナ、ネパール等の東南アジアにかけての森林地帯
*大きさ*
頭胴長50〜60p、尾長28〜35p、体重2〜6kg
*食性*
昆虫食。専らアリやシロアリを好んで食べる。
*備考*
一見すると爬虫類のようだが、列記とした哺乳類。
全身を包む鱗は毛が変化したもので、非常に質が硬く、鉄板にさえ傷をつけられる程。
眠る時や身の危険を感じた時は、体を丸めて鱗の生えていない腹部を隠すようにして身を守る。
こうした護身術や、アリ・シロアリ食に適応した外見から嘗てはアルマジロに近縁の動物と考えられていたが、
解剖学的な見地から別の系統と考えられるようになり、現在は独立した目を立てられている。
林の中に深さ2〜4mの巣穴を掘って生活し、基本的には夜行性。
地上で生活するが、木登りも巧いし、泳ぎも巧み。
鱗が漢方薬の原料になる上、肉が珍味とされている為過剰に捕殺されており、早急な保護が叫ばれている。
尚、近縁種がアフリカに4種ほど、インドとその周辺に2種いる。
※センザンコウの分類名に関しては、多くの図鑑で「有鱗目(ゆうりんもく…ラテン語での世界共通分類名“PHOLIDOTA"の意訳)」と称している通例が多いようです。然し、日本では爬虫類のトカゲ、ヘビ類の分類名としても「有鱗目」の語は頻繁に使われており、非常に紛らわしいので、当サイトではセンザンコウの仲間のみ、近年文部省推奨として用いられる事が多い「センザンコウ目」の名称を使いました。予め御了承ください。(中華的熊猫)