*関八州を束ねる女傑河童*
「祢々子河童」(ねねこかっぱ)は、関東平野を流れる利根川を根城に、関八州の全ての河童を統括していた女河童である。
女だてらに天下無双の荒くれ者だったと伝えられ、関東の外から利根川の豊かな流れを狙って集まる日本各地の荒くれ河童どもを相手に少しも退かず、一歩も関東の土を踏ませなかったと言う女傑である。九州最強の河童と謳われる「九千坊」(くせんぼう)でさえも、彼女の前には一敗地にまみえるしか無かったと言うから、その強さが伺えよう。
暴れ者の「祢々子河童」だが、その一方で仁義に溢れた一面もあったと言われ、千葉県の銚子にはこんな話が伝わっている。
利根川河口の近隣に貧しい百姓の親子があった。ある時、その家の親父さんが畑仕事の最中に足を挫き、歩けなくなってしまった。医者に診せる金など無い貧しい百姓家の事、息子が困り果てていると、ある時その息子の前に「祢々子河童」が現われ、手にした水草を差し出して言った。
「これは打ち身や挫きに効く薬草だ。これをすり潰して膏と混ぜ、湿布に塗って患部に貼り付けてやれ。そうだね、12〜13枚も貼り代える内には、お前の親父さんの足の挫きもきっと治ってるだろうさ」
息子がその通りにすると、果たして親父さんの足の挫きは嘘のように完治したと言う。以来、この家では「祢々子河童」に教わった挫きの妙薬を商うようになり、大層栄えたと伝えられている。この家のあった場所は、湿布13枚で足の挫きが治った事に因み、「十三枚」と言う地名がつけられているそうだ。