トラフサンショウウオ
Tiger Salamander (Ambystma tigrinum)

「ネオテニー」と言う言葉がある。
特に幼体と成体とで姿かたちが著しく異なる動物で、
外見は幼体のままなのに体内機能が十分に成熟し、
生殖機能を保持するに至った個体が現れる事を指す。
「幼形成熟」等と翻訳される。

此処に紹介する両生類、トラフサンショウウオは、
そうした「ネオテニー」の最たる例の一つだ。
トラフサンショウウオのネオテニーは古くから方々で知られ、
原産国では土着語で「アホロートル」と呼称されていた。
実験動物として古くから知られており、
ひと昔前には「ウーパールーパー」の名前で
ペットショップなどでも販売されていた事もあった。

ところで最近、人間社会で、
所謂「成人」の定義が揺らいできている。
年端も行かぬ若年世代が大人顔負けのふしだらな行為に興ずる事もあれば、
一方で、成人年齢に達しているにも関わらず幼児性が抜けない人物の事を
「アダルトチルドレン」と呼称して蔑んだりする。
差し詰め、人間版「アホロートル」だ。
…最も、人間は祖系的類人猿の「ネオテニー」から進化したとする学説もあるようで、
甚だ突飛な話、と言う程の事でもないけれど。
<データ>

*分類*
両生綱 有尾目 マルクチサンショウウオ科
*分布*
北アメリカ全土の、流れの緩やかな淡水域
*大きさ*
全長15〜25cm、最大で40pまで
*食性*
肉食。環形動物、陸貝、昆虫、小魚等、口に入るサイズの小動物が主食。
時には小さなカエルや別種のサンショウウオ、果ては稚ヘビや仔ネズミまで捕食する。
*備考*
北アメリカを代表する有尾類(イモリやサンショウウオの仲間)。
見かけは鱗の無いトカゲのようで、四肢は短く頑丈、縦に扁平な尾と大きな目が特徴。
幼体は成体に比べると色が淡く、発達した大きな外鰓を持つ。
黒っぽい褐色の地にトラの縞模様を思わせる駁模様が入るのが特徴で、棲む地域によって形状に大きな変異があり、
その差異によって地域的な幾つもの亜種(現在の分類では通常6亜種)に分類される。
両生類としては比較的乾燥に強い種類で、雨が降らない乾いた気候が続くと、
穴居性の小型哺乳類(ジリスなど)の穴に潜り込んで仮眠する事が知られている。
一部分布域に、幼体のまま性成熟して繁殖する個体が頻繁に派生する事で有名で、
こうした幼形成熟個体群を特に「アホロートルAxolotl…水の仔犬、の意味)」と呼称する。
幼形成熟が頻繁に起こる原因としては、分布域の水温の関係とか、
ヨード摂取不足による甲状腺の異常などが起因しているようである。