アナコンダ
Anaconda (Eunectes murinus)

とある動物園の爬虫類展示室での事。

私が中に入ろうとした時、絹を裂くような叫び声と共に、
出入り口から数人の女性が飛び出してきた。

「キャーキャー言うくらいなら最初から爬虫類見に入らなければよかろうに…」
そう思いながら展示室に入った私の目の前にガラス張りの壁付け水槽が現れた。
中にいるのは人の腕ほどの太さがある、金色と黒の斑を持った大きなヘビ。
南米に住む大蛇、アナコンダだ。

先程の女性達はこれを見て逃げたものらしい。

生きている爬虫類を見て、キャーキャー言いながら逃げる女性の姿は珍しいものではない。
何処の動物園に行っても見る事が出来る光景だ。

そして、そうした女性に限って、
ヘビ革のベルトとかワニ革のハンドバックとか、オオトカゲ革の靴とか、
爬虫類の革を剥いで作られた製品をこれ見よがしに身に付けている事が多い。

彼女達が生きている爬虫類を見て叫ぶのは、単にそれが怖いのか、
それとも爬虫類革製品を身に付けている事に対する後ろめたさなのか。

ふと脳裏に湧きあがった疑問を他所に、
水槽の中のアナコンダは、さも億劫そうにトグロを巻く。
<データ>

*分類*
爬虫綱 有鱗目(ヘビ亜目) ニシキヘビ科
*分布*
南米アマゾン川流域の森林地帯
*大きさ*
全長4〜8m、胴体の直径30cm内外、体重30〜250s
*食性*
肉食性。小型の哺乳類、鳥類、ワニの子供、
カメ、両生類等、口に入る大きさの脊椎動物ならば何でも捕食する。
*備考*
新大陸最大のヘビ。公式な記録では全長9mが最大記録だが、
信憑性の薄い報告では11mに達するとも言われており、その実在性には今でも論議が絶えない。
アナコンダと言う名前は元々はインド・タミル語で「ゾウを屠る者」と言う意味の言葉に由来し、
元来は東南アジアに産する別のニシキヘビに付けられた名前だった。
森林内の水辺に棲息し、水中で過ごす事も稀ではない。
卵胎生(卵を体内で孵化させる習性)で、全長70cm程の仔ヘビを
一度のお産で30〜80匹くらい産み落とす。
性質については荒いとも、おとなしいとも言われ、個体差が激しいらしい。
また、意外に神経質な所があり、
慣れない環境下に置かれるとハンストを起こしてしまう事もある。