*馬の生首の姿を借りた魔物*
岡山県を中心に日本各地に伝えられる妖怪で、馬の生首の姿と言う実に慄然たる様相の物の怪(もののけ)である。
やんごとなき用事で外を歩いていると、道の傍らにある大木が風もないのにざわざわと大きな音を立てる。不思議に思って近寄ってみると、出し抜けに榎の梢から馬の生首がぬっと顔を出し、さも苦しげに大声で嘶く…概ねこのような悪戯で夜道を行く人を脅かす。
一説によると、この妖怪は道中、重労働に耐えかね死んでしまった馬の亡霊が化した存在だと言う。どう言う訳か、彼等が姿を表すのは決まって榎の木の傍、とされている。
三宅島にも似たような怪が伝えられており、こちらはストレートに「首様(くびさま)」と呼ばれている。
「首様」に関する由来談はこうだ。…昔、ある家の美しい娘に懸想した馬がいた。馬が自分に恋慕していると知った娘は「明日、その頭にツノを生やしてきたら嫁になってやる」と言ってからかった。すると馬は翌日本当にツノを生やして現れ、娘に結婚を迫ったが、娘がそれを拒んだ為激怒し、生やしたツノで娘を突き殺してしまった。
驚いた島民はこの化け物馬を捕らえて首を切り落とし、殺した後に後の祟りを恐れて馬の首を丁重に供養した。
その後、この馬の首だけが魔物と化して夜な夜なさ迷い歩くようになった、と言う。