インドガヴィアル
Indian Gavial (Gavialis gangeticus)
目の前の浅いプールに、2匹のガヴィアルが折り重なっている。
もう何年も連れ添っている夫婦だ、と言う。
インドとその近隣国にだけ住む珍しいワニであるガヴィアルは、
ワニの仲間でも最も大きな卵を産む事で知られている。
長径90mm、短径60mmにも達する大きな卵は、
産み落とした母親自らによって丁寧に砂の揺り篭に埋められ、
大地と、太陽の光の力を借りて育まれる。
現地では、この卵が精力剤として人気が高いと言う。
根拠の程は不明である。栄養価だってきっと鶏卵と変わらないくらいだと思う。
しかしながら、昔からこのワニは卵の盗掘者達に付け狙われ、
その個体数を減じてきた。
悲しい事に、その悪習は今も全く廃れてはいない。
長じては河川の誇り高き漁師に成長するであろう、
掛替えの無い命の片鱗を盗み、喰らって付ける精力など何の価値があろうか。
医学が進歩し人間の寿命が年を追うごとに伸びている昨今、
こうした根拠の無い薬食いは是非とも辞めて頂きたい物だ。
私の目の前で、プールに折り重なっているガヴィアルの夫婦も、
きっとそう思っているに違いない。
<データ>
*分類*
爬虫綱 ワニ目 クロコダイル科(後述参照)
*分布*
バングラデシュから北部インド、パキスタンにかけての流れの速い河川
*大きさ*
全長5〜7m、体重900s以下
*食性*
魚食性。通常のワニ類では捕まえる事の出来ないような、
動きの速い魚をも捕食する事ができる(後述参照)。
*備考*
ツルの嘴のような細長い吻部を有する変り種のワニで、ワニの仲間では最も水中生活に適応した種類。
一日の大半を水中で過ごし、産卵や日光浴以外の目的で陸に上がる事はほぼ皆無である。
長い吻部は最大幅の実に6倍もの長さがあり、上顎に27〜29対、
下顎に24〜26対の細かく鋭い牙が生えている。
一見風変わりなこの面構えは、流れの速い水中で水の抵抗を出来る限り減らし、様々な魚を常食とする為の適応。
狩りの時はこの吻部を横薙ぎにして、一瞬の早業で魚を噛み殺す。
オスの方がやや大きく、鼻面に瘤状のトサカがあるので直ぐに見分けがつく。
ガヴィアル(Gavial)と言う名はこのトサカに由来し、
サンスクリット語でこのトサカを指して呼称した「土の壷」を意味する単語Garialからの転化。
乱開発や密猟、卵の盗掘が原因で急激に数が減少しており、
野生下の個体数より飼育下の個体数の方が多いとさえ言われている。
尚、様々な特徴から独自のガヴィアル科に分類される事もあるが、当サイトでは最新の分類法に従った。