「来年までには、コムイにこの部屋なんとかしといてって、言っておかないといけないさ」

 


 またこの季節が来た。自分でもどうしようもなくもてあますこれは、コムイにとっても迷惑ならしく、業務に支障をきたすという理由で発情期が来て大きくなった者はこの辺りにある隔離された部屋へ強制的に入れられる。
 自分にとってこれはもう数回目になるのだが、隔離といっても一人一部屋にしていたら足りないので、昔から一緒のラビと一部屋を共有するというのが周りからも自分でも習い事のようになっていた。どうせオス同士で、お互い全くそういうつもりがないのだから、別に一部屋に一緒にしておいても大丈夫だろうという判断だ。
 恒例のようになったそれに、今年のラビの対応は少し違った。
 部屋に入るなり突然言われた言葉に、どういう意味で言われたのか分からずに怪訝な顔をして振り向く。
 「は?」
 「…ユウのそれって、分からない振りしてんの?」
 見つめた先のラビは困ったように頭を掻いて少し笑っていて、尚のこと訳が分からない。
 「こういう事までオレに言わせないで欲しいさ。…だから次のこの季節にはきっとアレンも発情期になるよね?」
 「あんなガキが次にでかくなるか?わからねえだろ。それにどうしてそれが関係あるんだよ、ねえだろ」
 「いーや、でかくなるね。子供だと思って見くびってたらいけないさ。っていうかもう根性でもなるだろ。とにかく、そうしたらユウは関係ないなんて言ってらんないでしょ。その時にはユウはオレとじゃなくて、アレンとちゃんと部屋に入らなきゃいけないんだし」
 「はぁ…っ?」
 びしりと指先を突きつけられて言われる。
 思ってもみなかった突然の言葉に訳が分からなくなる程動揺した。
 一緒の部屋に入らないといけない?なんでだ?
 なんでだ、と混乱した頭で思うけれど、その言葉が示すのはたった一つの意味だと、本当は分かっている。でも理由が分からない。どうして俺とモヤシで?
 「なんでそんな動揺するんさ。いい?ユウ、オレが言ってんのは、アレンが発情期になったのならユウとつが、」
 「いい!言うなばか!」
 わざわざ言葉でなんか聞きたくなくて、その言葉を手で遮る。顔を抑えられたラビに手を掴まれる。そういうつもりがなくても、こんな風に触られれば訳の分からない熱で身体が震える。顔をしかめれば、すぐにラビは手を離した。
 「分かってんだったらいいさぁ。それすら知らなかったらどうしようかと思った」
 発情期に入って、ひとつの部屋に一緒に入る。それは、本当だったのなら、お互いがお互いを選んだ相手とする事だ。こんな風にラビと、仕方ないからという理由で入るのとは違う。
 分かってはいるのだけれど、頭の中で上手く整理できない。
 本当に?
 そういう意味になるのが可能なのか?
 「………俺とあいつはオス同士だぞ」
 ぼそりと言えば、ラビはああそれは知らない訳ねと少し困った顔をした。
 「オス同士だって子供が出来ないだけで、そういう意味になるのは可能さ。それに好き合ってんだったら関係ないだろ」
 「お前なあ…っ」
 「本当はさ。お互いそういうつもりがないって言っても、今年だってオレとユウが一緒なのはやばいさ。今はまだあんまり訳分かってないと思うけど、アレンは気付いたらそういうのいい気がしないと思う。まあ今年はもうどうしようもないから仕方ないけど」
 こいつは本気でそういう事を言っているのだろうか。
 次に。
 次にこういう季節が来て、あいつが大きくなったら本当に二人で部屋に入れって?しかも、ラビと一緒にここに入るような仕方ないという意味ではなくて。
 お互いがお互いを選んだ、―――番って意味で?
 こんな殺風景な小さい部屋で、子供を作る事をしろって?
 オス同士で?俺とモヤシで?
 考えれば考える程訳が分からなくて思わずしゃがみこむ。どうしていいか分からない。
 「あー、もうそんな訳が分からないって顔しなくていいさ」
 ラビは半ばバカにしているような仕草でしゃがみこんだ俺の頭を撫でた。
 いつもならそんな手も振り払う所だが、これにすらどう対応したらいいのか分からない。
 「ここは女の子いないから、本当の意味で番になってるペアいないしなあ。次までにはこんな色気のない部屋じゃなくてさ、ちゃんとした部屋、用意してもらわないと。それはコムイに言っておくし、それに、やり方はアレンにオレが言って教えておくから」
 「なんなんだよ、それ…」
 「オレが今ここでユウに教えてもいいけど、単に言葉で教えておいたってだけでもアレンが変に誤解すると悪いさ。だからダメ。それに、訳分からなくて困ってるユウなんてせっかく珍しくてカワイイんだから、「その時」までちゃんと取っておいて欲しいし」
 「俺には言わないのに、モヤシには言うのかよ」
 「ん〜。教えてもいいけどさ。ユウ相手にこんなところに二人きりで教えたら、もしかしたらオレもやばいかもしれないし」
 何とか気を取り直して顔を上げて、撫でてくる手を振り払った。
 笑っていたラビの顔がほんの少し寂しそうになったのは、どういう意味だろう。
 「てめえな、」
 「あー、オレなんか子供もいないし、それ以前に番になる相手もまだ見つけてないってのになあ、もう花嫁の父親気分味わうなんて変な感じさ。でも、よかったさ。そういう相手が見つかるって凄くしあわせな事だもん。今年は無理だけど…きっと次にはきっと大丈夫だから。な?ユウ、ちゃんと待ってろよ?」
 ラビがそう言う。
 待つってなんだ、バカ。あんなガキのことなんか待つか。
 考えれば考える程赤くなって無様なんだろう自分の顔が隠したくて、俺はラビに背を向けて備え付けのベッドに潜り込んだ。
 こういう部屋にいなきゃいけなくて、今はよかった、そう心底思った。
 今一緒にいるラビにだったなら、こんな所を見られてもまだ我慢出来る。でも今、側にいるのがあいつだったら。もしそうだったら。
 どうしてこういう態度を取るのかしつこく聞いて、食い下がってくるに違いない。何度も何度も名前を呼びながらベッドの側まで来て、その手で触れて。
 自分でも説明のしようがないこの熱も感情も、聞かれたって答える事なんか絶対出来ない。
 だから今は顔を合わせずにいられてよかった。そう考えて、きつくきつく目を閉じた。
 『―――、』
 記憶の中で蘇る、あいつが俺の名前を呼ぶ声を何とか打ち消そうと、しながら。







Tempestの織瀬さや子さまからうちのどうぶつ設定でお話を頂いてしまいましたよよよ…!
はつじょうき!はつじょうきちょう萌え…!(ずたんばたん!)
自分で描いときながら何ですが来年が楽しみすぎるよ!かわいーよー!
オマケもあってそれもすっごい可愛かったのですが(ときめいた…!)そちらは一応私だけが楽しむということで…うおーんホントちょうかわいい勿体無い…もっと読みたいはあはあ…!
織瀬さん本当に有難うございましたちょう嬉しかったです…!