ブッコ学的ライブレポ
〜MUSIC DAY 2001 遊佐未森 in SHIBUYA-AX〜
……編集室ファイル#5

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 SHIBUYA-AXに到着したのは、開場時間の午後6時を少し回った頃だった。
 建物の前には開場待ちのファンが集まっていて、イベンターの入場に関する説明を聞いていた。最初に入場するのはイベンターであるフリップサイドのチケットを持っている人たちで、次は2階の指定席。ぴあのチケット持参者はその後になる。ぴあチケットの277番だった私の順番はまだまだずっと先の様子だった。
 荷物をロッカーに預けるように、ということだったので、MDぐらいしか入ってないカバンをロッカーに入れ、手ぶらで入場することにした。会場脇の狭い通路に設けられていたロッカーはずいぶんと小さなサイズで、たいして大きくもないデイバッグを入れたら一杯になってしまった。これで300円という値段にちょっと納得がいかない。しかも硬貨の受け皿がだいぶ下にあるらしく、カギを回した途端、取り込まれた300円がガシャガシャと派手な音を立てた。
 私が会場に入れたのは、6時40分頃だったろうか。フリップサイド・チケットが500番まであったので、実質777番目――なんか思いっきりフィーバーしてて、さい先がいい。
 会場に入ると、ちょっとした通路のような部分があって、そこでは未森さんのCDや今までのライブのパンフレット、カップやマウスパッドといった商品が売られていた。ライブ行き損ねたファンが買っていくのだが、チェックも入れてないライブのパンフを買っても…と思い、マウスパッドを購入。

 SHIBUYA-AXは、前に行ったeggsiteと比べてだいぶ大きなライブハウスであるが、黒い壁に照明器具が大量につり下がったステージ、立ち見の席に設けられたクッションの巻かれた柵、という基本的な雰囲気は同じである。ただ、今回のステージはだいぶ高く、eggsiteのように部屋の一部がステージであるかのような造りではなく、観客席とは独立した部分として造られていた。しかし想像していたよりもステージは目の前で、立ち見席の真ん中当たりに場を占めた私からも、舞台の様子がはっきり見て取れた。
 会場には虫の音と鳥の声が流れていて、舞台の照明も星がまたたくかのように小さなライトをちかちかさせ、たまに未森さんの曲らしき(初心者ゆえはっきりとはわからなかった)音楽が流されていた。雰囲気作りのための、なかなか凝った演出である。
 さて、未森さんのライブの観客は、想像していたとおり年齢層が高めだった。23の私でも若い方に入るかも知れない。比較的男性ファンが多いが女性ファンも多く、カップルで来ている人たちも多かった。2階指定席に初老の夫婦がいるのを見つけた時には、さすが未森さん、ファン層が広い、と思った。
 オープニングまでの間は、配られたチラシの山を読みあさっていた。イベンターのフリップサイドによるもの、会場であるSHIBUYA-AXでのライブ広報などで、彼女が行くという7月20日の「Augusta Camp 2001」のチラシも入っていた。本当は私も一緒に行きたかったのだが、休日にも関わらず会社の研修がある様子なのであきらめたのだった。この手のパンフはいざ曲を聴くとなると結構邪魔になるのだが、足下に置こうという雰囲気でもない。大した大きさでもなかったんだし、あのデイバッグは持ってくるべきだった、とかなり後悔した。

 会場の方から開始の案内があり、実際に始まるまではしばらくの時間があった。
 部屋が一気に暗くなり、いよいよか、と思って舞台を見ると、バックの人が2人出てきた。拍手の起こり方がクラシックのコンサートに似て、大人っぽいノリである。
 バックの演奏者が軽く得物をつま弾いた後、本命の未森さん登場。割れんばかりの拍手に迎えられ、未森さんは舞台の真ん中で深くお辞儀をしていた。

 初めに1曲、懐かしい曲を歌ってから、軽くMCが入る。
「明日は子供の日ですが、大人も盛り上がっちゃいましょう!」
 と、今回のイベントを提供しているネスカフェ謹製・未森さんサイン入りのTシャツを3つ、会場に投げた。一つが自分の方に飛んできたのでヲッ、と思ったが、Tシャツは手前で失速し、前にびっちり詰まった人たちの中に消えていった。そういうことをしても極度の大騒ぎにならないところは、さすが大人のノリである。
 2曲目は未森さん自らキーボードについて「一粒の予感」。大好きな曲で、当時尺八の練習用にと自力で譜面に起こそうとして失敗して以来、なんとなく聞かなくなっていたが、今回改めて好きになった。やはり生演奏はすばらしい。
 3曲目からは3人の演奏者を新たにバックに迎え、最新のアルバム『Small is beautiful』から「Small is beautiful」と「ココア」。「ココア」はノリもよくお気に入りの曲なだけに、かなり体が動いてしまった。前の方にはかなり強烈に揺れてる人もいた。
 そこで軽くメンバーを紹介し、『Small is beautiful』とその前のアルバム『庭』から続けて3曲。それほど意識してなかった曲だが、どれも好きになった。
 なんと言っても素晴らしいのは、未森さんの歌唱力である。ライブというと、テレビの生出演なんかを見ていると思うが、音程のズレはある程度覚悟しなければ、というところがあると思っていた。しかし未森さんは音程を全く外さない。なまじっか楽器をやってたせいで、音量をハズされるのが一番気持ち悪く感じるのだが、未森さんの場合には完璧に歌うのだ。きれいな伸びのある大変美しい高音で、声量もあるのでバックがどんなに音を立てても負けない――ムリにマイクでボリュームを増やしているわけではないから、ノイズが入らないままで、バックのドラムやギターの音量に負けないのである。しかもどんなに激しい曲でも、キーボードを引きながらでも声の質に影響がない。未森さんのすばらしい歌唱力があってのことだろう。
 最初の2曲ぐらいは喉の調子があまりあがってなかったのか、ちょっとひっかかるところがあったが、尻上がりに調子をあげてきて、ゲストのcoba登場の前の、歌詞のない声だけの曲「ネクター」の時には本当にうっとりするような歌声を響かせてくれていた。

 cobaの登場の時の拍手もすごいものがあった。ご挨拶代わりのアコーディオン演奏では高度なテクニックを披露、未森さんとのセッションを一曲。
 cobaはその高い演奏技術のみならず、巧みな話術の持ち主でもある。
 ロンドンで未森さんと「ヤドカリ」をレコーディングした時、しばらく日本語をしゃべる機会が無かったという鬱憤がたまって、未森さんに「スピード倍速・ギャグ連発」な会話を展開したとか、
「そういうことするとたいていみなさん去っていってしまわれるんですが、こうして呼んで下さる未森さんは本当に出来た方だ。」
とファンの心理をくすぐりつつ、盛大な拍手が会場から起こると
「なんでそんなに拍手が大きいんだ!」
とちょっと怒ったフリをしたりと、会場を大いに湧かせた。
 他にも、彼が出演しているNHK「イタリア語会話」に「かわいい司会の女の子にセクハラ発言をしたcobaをおろせ」との投書が大量に来ているとか、友達から何から失ってしまったので失う物は何もない、とか……未森さんも舞台の上で本気で笑ってしまっていた。
 この後のセッション「ヤドカリ」は最高だった。マラカス(?)を振りながら、楽しそうに踊って歌う未森さんと、美しいアコーディオンの音色を響かせるcoba。会場はいやが上にも盛り上がった。

 coba退場の後は、キーボードの前に座っての未森さんのMC。最近新しいCDを制作中で、早く作ってくれとせかされているとか、海の側のデザイナーの家に遊びに行ってカクテル作りを楽しんだとか。
 その後は5曲連続、一番最初の懐かしい曲「地図を下さい」に始まり、その後はノリのいい曲が続いた。みんなで手拍子を打ち、体を動かす。盛り上がりはピークを迎えた。
 私もすっかりノってしまい、この時間帯の記憶はかなりあいまいで、曲順や曲名、周囲の雰囲気などははっきりと覚えてない。後日ファンのページでスケジュールを見て、そう言えばそうだった、という程である。彼女が「ライブで盛り上がってる時の記憶って飛ぶよ〜」と言っていたのを思い出した。私は我を忘れて手を叩き、体を踊らせていたのだった。感動のあまり目が潤んできて体が震えて、ちょっと動けなくなった瞬間もあったかもしれない。

 一旦全員が出ていった後も、ファンの拍手はやまない。タイミングを合わせるように手を叩き、スピードが速くなりすぎると、誰かが半分のスピードに遅くして、それからもう一度……
 それを何度かやっているうちに、また舞台が明るくなる。全員が改めて出てきて、一段と大きな拍手がそれを迎えた。すると、未森さんの紹介でcobaがもう一度出て来るではないか!しかもお約束通り、お辞儀をしつつマイクにゴン……その間合いが絶妙で、全員大受け。その上なんと、予定には書いてなかったのにゲストとしていしだ壱成が登場し、会場からはどよめき、そして盛大な拍手がわき起こった。彼は中学の頃からの未森さんのファンらしく、未森さんの曲はだいたい覚えているらしい。
 そして、いしだ壱成・cobaを交えての「風の吹く丘」。これも私の大好きな曲で、いしだ壱成の声もなかなかのものだった。壱成も未森さんも舞台の上で本当に楽しそうに飛び跳ねていて、私も思わずつられて、リズムに合わせて伸び上がってしまった。
 こうして会場と、そしてバンドや未森さんたち自身も大変な盛り上がりの中、曲が終了し、改めて全員が退場していったのである。

 会場にライトがともり、当然帰る人たちがちらほらと現れる。しかしほとんど全ての観客はその場を去ろうとしなかった。またアンコールの拍手が続く。私も拍手の中に混じった。会場には「これにて本日の公演はすべて終了しました」とアナウンスが流れるが、アンコールの拍手にかき消されてほとんど聞こえない。拍手のスピードがすぐに上がってしまうので、何度も何度も調整のための拍手をし直して、それでもあっという間に元のスピードへ……そうして何度も何度も手を叩いていると、ステージに明かりがともった。そして未森さんが一人で舞台に現れた!その時の歓声、拍手のすごいこと!私も手を上にあげ、思いっきり手を叩いた。
 未森さんは、今回のライブがすごく盛り上がって楽しかったこと、9月の特番でこのライブが一部流れること、ライブの新しい形を模索していることなど、いろいろと話をしてくれた。バンドの事もあってか歌はなかったが、それでも本当によかった。
 帰り際、自分の手のひらの感覚が鈍くなっているのに気がついた。それだけ思い切り、手を叩いたという証拠である。

 今回のライブは、未森さんの歌はもちろんのこと、ライブの雰囲気も私に合っていた。落ち着きがありつつ、盛り上がるときは思い切り盛り上がった。未森さんのライブのおかげで、これで連休明けには仕事に思い切り打ち込めるぞ、とも思えるようになった。
 今後は毎回のライブに参加して、未森さんから日々の生活、仕事への活力をもらいに行くことになるだろう。そのためにも、まずはファンクラブに入会しよう、と思っている。

(01/5/5)
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