内定者として……編集室ファイル#4

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<以下の記録は、会社の採用イベント・サポートのバイトをしたときの「ぶっこ旬報」です。>

0日目
 内定先企業のイベント・サポートの仕事に向かう。この日はガイダンスのみで、仕事は翌日からである。
 採用担当のKさんから、当日の仕事の割り振りや仕事の内容、会場の概要、短期雇用者(つまりはアルバイト)としての契約書類などを渡され、書き方などの説明を受ける。
 今回のバイトには、前からの知り合いであるT君も参加していた。しかし受け持ちの場所は別になってしまった。残念である。

1日目
 採用イベント・初日。会場が自宅から大変遠いので、朝5時起きで向かう。それでも朝8時に現地着。
 私の担当したのは学生さんの誘導だったが、Kさんが「当日始まってみないと何が起こるかわからない」とおっしゃっていた通り、勝手が分からなくて大変だった。ほとんど持ち場にはいることがなかった。それに、チームリーダーになった人とも、どことなく馬が合わないなという雰囲気を感じていたのだが、その予感が的中。やりにくさを感じた。
 さらに途中で、別の採用イベントの会場と間違えて入り込んでいる人たちがいる、ということで、イベント幹部のWさんと外に出かけ、そこでも誘導の仕事をした。そんなわけでますます私は「行方不明キャラ」化してしまい、チームに迷惑をかけてしまっていたのだった。
 さて、我々の任務として、内定者として学生さんたちに話をする、というものがある。学生さんは我々を、とある印で内定者だと簡単に見分けられるので、会場に突っ立っていると「今、お話よろしいですか?」と話しかけてくる。彼らの質問に対し我々なりに感じた意見を述べるのだが、あくまで企業に内定した者としての立場における意見である――つまりは一種の宣伝なのだが、真の第一志望の企業に入った私にとっては造作もないことである。
 質問の内容は、志望動機や自己分析、自己PRと筆記・面接試験の内容について。一回の質問で1時間近く話し込むこともあったが、その間に誘導の仕事がおろそかになることも……。でも、自分の話にちゃんと耳を傾けてくれるのがうれしくて、ついつい話し込んでしまうのだ。
 このセミナーには、自分のゼミの3年生も来ている。「ちょっとお話よろしいですか?」と声がかかったので、愛想良く「はい、いいですよ♪」と答えたら、うちのゼミの3年ゼミ幹事だった。彼にはゼミ合宿でも話をしたことがあったので、だいたいそれと同じようなことを話した。
 その日の終礼では数多くの改善点が指摘され、意見も活発に出た。終わったのは午後7時半。それだけみんなが素直にまじめに取り組んでいる、というのがすばらしい――例えたかがバイト、と思っていても、仕事をやり出すと熱くなるタイプの人が集まっているんじゃなかろうか。自分がそうなだけに、同僚が同じタイプというのがうれしい。これならまじめに仕事に取り組むことで周囲から浮いてしまうことはないだろう。もっともやりすぎには注意しなくてはならないが……。

2日目
 採用イベント・2日目。仕事の様子がだいたいわかってきて、だいぶスムーズにいくようになった。最も効率のいい手順もわかってきた。
 まず最初は入場者の誘導。入場口から椅子のある場所まで内定者が点々と並び、通路を造って誘導する。3セットあるメインセミナーのうち、午前中となる第1回目では「おはようございます」、後2回では「こんにちは」と声をかける。はっきりさわやかに挨拶を返してくれる人、恥ずかしそうに頭を下げてくれる人、緊張しているのか固まった表情で歩いていく人、無反応の人とさまざまだった。
 このエリアの担当だったN君とは、配属先が一緒で帰りも同じ中央線と言うことで、親しくなったのだが、彼は本当にまじめに取り組む人で、誰よりも大きな声を出していた。彼に触発されて、私も思いきって声を出す。おかげで今までどことなく持っていた他人に対する壁のようなものが、取っ払われた気がした。
 第1回目のメイン・セミナーが行われている時には、入場列の誘導はほとんどないわけで、受付担当以外は暇である。中には広いホールの端に座れば誰にも見とがめられないのをいいことに、こっそり睡眠を(爆)とっている人もいた――私もそのクチである(^^;)
 メイン・セミナーの最後には、子会社のCFが20分ほど続く。このCFの中に、日本語なのだがどうしても聞き取れない発音をする人がいて、メインステージの舞台転換を手伝っていた内定者は、このCFを見るたびに笑っていたらしい。私は気がつかなかったが、この人の発音はかなり話題になっていたようだ。
 メイン・セミナーから次のミニセミナー・ブースに向かうには、大変狭い階段が2カ所あって、それを上っていかなければならない。出口に向かうにも階段を上る必要があるので、当然の事ながら階段付近、特に出口に近い階段が大混雑する。しかも次の回の開始まではたった15分、というわけで早速入場者の列がやってくる。空いている階段の利用を進めたり、急で混雑している階段の注意を促したりしていると、入場の門が開くので、頃合いを見てそちらの誘導の列に加わるのだ。セミナーが始まるころには、前の回の人たちは上にあがっているので、ようやくひと段落し、持ち場へと戻るのである。
 次の回のメインのセミナーが行われている間には、前の回のセミナーを受けた人たちが、ブースでの説明が終わった人たちが他のブースへと移動を始めたり、その辺に立っている内定者に質問したりする。持ち場での仕事はほとんどが内定者の質問への回答である。
 第2回のセミナーが終わる頃には、ブースには人がほとんどいなくなっている。そして第2回の人の誘導と、第3回の人の入場整列が始まるのである。
 休みはローテーションが決まっていて、設定した時間を目安に順番に休むようになっている。昼ごろの休みには内定者に用意された控え室に向かい、用意された弁当を食べる。ブリックパックの茶が用意されているが、2日目から私は紅茶を水筒に詰めて持っていった。初日に甘いものが飲みたくて買った缶コーヒーの金が、もったいなく感じたのだ。
 控え室には、たいてい内定者の誰かが休んでいて、自然と話の輪に混じることになる。目下の話題は配属先と、借り上げ社宅制度を使って借りる家のこと。借り上げ社宅の説明会はまだだというのに、みんな既に物件を探し始めているようだった。制度をちゃんと理解していれば、説明会に出る必要はない、ということだから別に構わないのだが、今は気分的に忙しくてそれどころではない。
 さて、入場者の到着には、時間帯でかなりの波がある。というのも最寄り駅に到着する電車が1時間に5、6本しかないという昼の時間帯には、人の波というのは顕著になる。前日の誘導の時、Wさんが「時刻表でもあればなぁ」と言っていたのを思い出し、私は前日の夜、ネットで駅の到着時刻表を見つけてきて、印刷してきた。1部は自分で持っていることにして、もう1部はKさんの所に持っていった。それは朝礼の時に受付に回されたらしいが、人の波が来る時間帯がわかって重宝したらしい。実際、遅刻した入場者の群が、自分の予想通りに来た時にはうれしかった。
 第3回目の入場整列が終わると、受付担当には大変暇な時間が訪れるが、内部と出口担当にとっては最後の正念場である。特に出口担当は、アンケートの回収から子会社ブースへの誘導に加えて、学生さんからの相談というのもある。学生さんも出口でたむろしている内定者の方が声がかけやすいらしい。我々のチームは場所的に近かったこともあって、リーダー自ら出口担当の手伝いをしていたのだった。
 この日の終礼で、翌日にブースが一つ減りカラッポの部分が出来ることが伝えられた。このブースのために用意された看板がいくつかあったが、その1つにあろうことか「内定者」というものがあった!確かに学生さんをひとところに集めて話をした方が効率的だろうが、内定者ごとに考え方は違うし、何より演壇に立つ内定者を選ぶのが大変だ、ということでボツになり、結局別の企画の説明ブースとなった。
 事前に用意されていた看板の中には、社内の女性のための団体(名前は忘れた)というのもあったが、Kさんは「男女平等の考え方に反する」と難色を示していた。つまりこの会社には元から男女平等の素地があるから、ことさらに女性の権利を主張する必要がない、ということなのだろう――女性の尊重を強く訴えるのは、訴えなければいけない環境にある人か、訴えなければ認めてもらえないと思っている人だけである。
 しかしこの会社にいる限り、認められないのは女性だからではなく、自分の働きが悪いからだ、と言える。女性にとってチャンスは十分に開けているが、男性のせいにして逃げることの出来ない、大変厳しい環境だとも言えるだろう。

3日目
 3日目、つまり最終日である。ここまで来ると仕事も手慣れたもので、どう動けば一番効率的かもよくわかる。
 今回のバイトは、中央線沿線の人が多かった。バラバラに電車に乗っても、中央線のホームに上がると誰かしらいて、集団になって帰る、というのがいつものパターンだった。それもこの日の夜で終わり、となると、なんだかさみしい気もする――といってももう1日この仕事をしろ、と言われたらごめん被りたい。1日休みをおいてならあと3日できるかもしれない。本当に楽しい3日間だった。
 今回バイトに来た内定者、希望者をつのって集めたにもかかわらず男女半々であった。そんな中で女性の品定め(爆)がこっそり行われるのはよくあることである。中でもとある女性は「才色兼備」とうたわれていて、ファンも一人見つけた。確かに顔立ちも調った、知的で行動的な女性だった。もっともこの会社の内定者は、みんな人間的にしっかりした人たちばかりで、自分の未熟さをまざまざと感じさせられることが多い。
 今回は最終日と言うことで、閉場時間の午後6時に近くなって、さっさと帰れと言わんばかりに「蛍の光」が流された。これがまたどんどん音量を上げ、響きのいいホールの中はまるでライブのような状況になった。ちょうど学生さんと話をしていたところで、彼の「必要以上に音量大きくないですか?」の問いには苦笑で答えるしかなかった。まさか重低音が腹に響くような「蛍の光」を聞けるとは思わなかった。アレンジのせいか、それはそれでなんだかかっこいい……ような気がした。
 この時、私への質問を順番待ちしている学生さんがいた。おや、と思って振り向くと、なんと去年、某銀行の説明会で偶然出会ったSではないか!彼は去年の活動を途中で切り上げ、今年もう一度やり直すことにしたのだという。私が2年間活動をして、内定を獲得したことが頭にあったのだという。今年は是非ともいいところに決まって欲しい。
 会場の撤収作業は目を見張るものだった。舞台装置がどんどんと片づけられ、跡形もなくなっていく。巨大なメインステージもブースも、あっというまに解体される。その手際の良さは、いい見物になった。
 この3日間着ていた企業のブルゾン、生地が薄くて防寒にならないとかいろいろ言われていたが、ずっと着ていると愛着がわくものである。
 2日目の終礼の時「これもらえるんですか?」との内定者の問いかけに、Kさんは首を振った。このブルゾンは全国で何ヶ所か行われる採用イベントの間でもちまわりになっていて、イベント終了後に他の地区へと送られるのだという。
「欲しいって言っても、着るところないでしょ。」
 Kさんは笑って言った。しかしいい記念品にはなる。会社としては持っていてもどうしようもないものだから、本当は内定者にくれたかったらしいが、そんな事情から我々は手に入れられなかった。我々のブルゾンは、別の内定者たちのために段ボールに詰められた。
 この夜は当然のように打ち上げが行われた。イベント・スタッフの人や、採用の大ボス・Kさん(採用担当のKさんとは別人)を筆頭とした人事の方も何人か参加された。あまり今まで会ってこなかった内定者や、なによりも大ボスのKさんと話が出来たのは楽しかった。これからの仕事がますます、楽しみになってきた。
 この日はT君に便乗して、10時半に早退。宴はその後も続いていて、残っていたN君の話では、採用に関わる面白いことがいろいろ聞けたらしい。

(01/3/15)
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