キレる人の主張……編集室ファイル#1

編集室へ HOMEへ戻る


 キレる子供、というのが取りざたされて久しい。カルシウム不足だとか、家庭の環境が悪いだとか、いろいろ言われている。

 確かに、キレる子供の中には理由がよくわからないものがある。しかし、彼にとってそれなりに筋の通った根拠があるはず、というのが私の持論である。本人が「むかついたからやった」と言ったからといってそれを理由にして片づけてしまうのは、その場にいる教師あるいは親の怠慢である。それは決して暴れる理由を正当化するものではないが、子供にとってはその根元的な理由を理解してもらっただけでも、大きな救いになる。もしも具体的な理由が見つかり、それなりの対策を施してもらえれば、子供にとってそれほどありがたいことはない。もし対策が万全なら、暴れる理由を無くして暴れなくなるだろう。むしろ「むかつくから」という曖昧な言葉で自分の意見をまとめられてしまっては、ますます「むかつく」ことになるだろう。

 私がキレた理由、それはひとえに、自己防衛である。
 友達でもないのにやたらなれなれしくしてくる奴。無視していると突然叩いてきたり、いたずらをしかけたり、からかったりしてくる。この手の人は愛想良くつきあったりすると、もっとひどいことをしてくる。すなわち「いじめ」の対象にされてしまう。生活に支障が出ることこの上ない。
 ならどうするか。嫌ないたずらをされたとき、からかってきた時、それなりの制裁を加える必要がある。ただ怒っても効果がない。最も有効な手段は「命の危険」を感じさせることにある。コイツを怒らすようなまねをするとロクなことにならないと認識させるのだ。
 そこで武装する。その場の椅子や机は有効な武器の一つだ。巨大でインパクトがあるうえ、コントロールが悪いのであたりが悪い。威嚇にはちょうどいい。
 これを続けていると相手もそのうちなれてくる。そこで武器はどんどんレベルアップしてゆく。コンパス、彫刻刀、切り出し小刀、と本当に「命の危険」を与えられる武器を必要とするようになる。そうしていじめの対象にならないために、必死の自己防衛を行うのである。

 私の経験では、中学2年がそうしたいじめのピークであった。主にからかってくる奴だけで10人以上、外野からヤジを飛ばす野次馬はその10倍はいる。最低でも10対1となる自己防衛の戦いで、素手での攻撃に自信がないとしたらどうするか。武装するしかない。アルコールを利用した火炎噴射機はもちろん、野次馬でごった返す廊下に火をつけて焼き殺してやろうかと思ったこともあった。この時点ではすでに威嚇の域を超えている。というのも威嚇だけでは相手は動じなくなっているからだ。実際に被害を与えない限り、相手は手を引いてくれないのだ。
 幸いにして、実際に傷害事件を起こさずに済んだが、これがもう少し、いじめが厳しく行われていたら、人の一人でも殺していたかもしれない。
 しかし高校2年になって、誰もがいじめよりも大学進学に気をもむようになり、誰もからかって来なくなって以来、私はキレて暴れたためしがない。そうする必要がないからだ。無駄なからかいやいじめを受けないとわかれば、自己防衛のための暴力は必要ないのだ。自分の国が絶対に戦争を仕掛けられないという自信があれば、軍が必要なくなるとの同じ理屈である。

 このように、いじめから身を守るために戦っている子供たちがいるのである。キレて暴れること自体に正当性は認められないが、それならいじめをする子供たちに対して、厳格な処罰を与え、暴れなくても身を守れるような体制を作ってほしい。特に集団による対個人のいじめに対しては、暴れるか、職員室をすみかとするような生活を送る以外方法がないのだ。友達といっても同い年の生徒50人を相手に戦ってくれるような人はいるはずもない。たとえそれができなくとも、いじめの状況を聞いて何らかの対策を取るぐらいしてほしい。せめて職員室を駆け込み寺にして話を聞いてくれたり、貴重品としてすべての荷物を預かってくれるぐらいしてほしいのだ。私はそのおかげで、だいぶ救われた。

 いじめが原因の子にかかわらず、「キレる子」を異質なものとして排除したり白眼視する前に、彼らがなぜ暴れなくてはならないのか、その理由をきちんと聞いてあげてほしい。 その上で、暴れることはより重い過失があることを説明してもらえれば、「むかつく」ことなく素直に聞けるのである。自分の意見に耳も貸してくれない相手の言葉に、誰が納得する?? 

このページの先頭へ戻る


編集室へ HOMEへ戻る