――――― 終章 ―――――
 
「あ、いたいた。ぶちょおー」
3年D組の教室に、奈央が小走りで入ってきた。陽は、読んでいた文庫本から目を離す。
「体育祭の反省会、いつにする?今日でいい?」
「みんなの都合がつけばな。できるだけ早いほうがいいし。今日明日くらいにはやっちゃおう」
「はーい、りょぉかーい」
相変わらず業務連絡の会話は短い。
 奈央は、陽が持っている文庫本のカバーを見やった。
「ぶちょ−、まだこれ使ってんの?そろそろやめないの?」
「そうだな。そろそろ飽きてきたな」
「でしょ?やっぱ他のに変えなよ」
「そうしよう。今度武田に頼んでおこう」
「だーかーらー」
「ん?どうした?」
「いや、なんでもない」
そのとき、教室のドアから奈央が、いや、牡丹が入ってきた。よく似た姉妹である。
「あ、お姉ちゃん、来てたんだ」
「まーね。どしたの?こんなとこで何してんの?」
「瀬戸さんに用があるんだよ。瀬戸さん、夏樹ちゃん、ちゃんと帰れるようになったみたいです」
「へえ、そう。それはよかった」
「夏樹ちゃんって、安達夏樹?」
「そうだよ。お姉ちゃん、知ってるの?」
「んー、聞いたことあるだけ。中学から続いてた無遅刻無欠席無早退記録が途切れたってときに」
「あー、あれは惜しかったね。でも、しょうがないかも」
「え?どうして?」
「んーん、なんでもない」
「なんなのよ?ぶちょ−、何か知ってる?」
「いーや、俺は何も知らないよ」
「二人そろって、一体何隠してんのよ?教えなさいよ」
「「ないしょー」」
「なにおー」
でも、これは本当に言えないよな、と陽は思う。
 なんにせよ、夏樹が立ち直ってくれたのならそれでいい。「終わりよければ全てよし」だ。
(やっぱり、笑ってるのが1番だしな)
 窓から入ってくる風に、思わずブレザーの前をかきあわせる。冬はもうすぐそこまで迫っていた。




私立赤星学園報道部 END
 
 
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