2004年9月:オーバー・ザ・ホライズン 〜僕は猫と空を行く〜 |
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僕は自然が大好きです。その中でも、空が一番好きです。
という話は、4ヶ月前にもしました。今回も空の話です。小さな町工場で整備工として働く少年が、自分だけの飛行機を手に入れて大空へとはばたく話。少女と、小さな1匹の猫を連れて。
本屋でこの本を目にしたとき、一目で買おうと決めました。だから、今回は中身をあまり読まずに買ってしまったのです。そして、いざ読み始めてみると、物語の中に渦巻く大きな世界に圧倒されました。大きな"人のこころの世界"に。
幼い頃から空のすばらしさを父から語り聞かされてきた少年トウジにとって、飛行機で空を飛ぶことは憧れの父に追いつくことであり、尊敬する父のいた世界に飛び込むことです。しかし、大戦の盛況で国土が疲弊しきったこの国では、空を飛ぶどころか飛行機を手に入れることすら難しく、多くの夢見る少年たちはその夢をかなえることなく、地上でおいていくのが常でした。トウジもその仲間に入るのかと思いきや、ある日、1匹の猫を拾ったその日から彼の運命の歯車が回り始めます。
虚構の少女に導かれ、敵の真っ只中にたどりつき、欲望渦巻く人間の闇にさらされ、仲間の裏切りにあって打ちひしがれる少年。しかし、夢をあきらめない彼には、信頼できる友人に出会い、味方の大きな援護を受けて、真実を取り戻した少女と共に、やがて光の中へと飛び立ちます。
うわべの優しさでは人は動かない。いくらきれいな言葉を並べ、同情の念を示し、大きな手を差し伸べても、その向こうに闇が隠れていれば、いつかはそれが露見する。言葉は通じなくても、差し伸べる手が小さく細くても、その向こうの情熱に狂いがなければ、人はこころを動かされる。
大切なのは、あきらめないこと。これは、叶わないとわかっていても、絶望の底に突き落とされても、決して夢をあきらめず、夢を追い続けた、金髪の少年の物語。
いつか空へ、自分だけの翼で、あの壁の向こうへ、父と母が愛した、その場所へ。
僕は、猫と、彼女と、空を行く―――― |
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★オーバー・ザ・ホライズン 〜僕は猫と空を行く〜
著者:橘 早月
イラスト:高科浅妃
刊行:電撃文庫(メディアワークス・角川書店)
2004年9月25日 初版発行
ISBN:4-8402-2789-6
定価:590円(税抜) |
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