2003年11月:式神の城U 陽の巻
2003年12月:式神の城U 陰の巻
 
 
 「式神の城」というタイトルは、同名のゲームからとられたものです。「式神の城」は、近未来の東京を舞台とした縦型シューティングゲームで、製作はアルファシステム。本来シューティングゲームは、弾の配置、機体のデザインやステージレベルなどを最優先事項として開発され、ストーリーなど二の次というのが一般的でした。ですが近年、ストーリーを含むシューティングゲームというのが増えてきています。そのパイオニアとなったのが、この「式神の城」です。
 「式神の城」は、2000年にその第1作目が稼動を開始し、そのストーリー性やキャラクターなどで絶大なる支持を受けました。そして、そのストーリーを幅広く世に知らしめる目的で、ドラマCDや小説が発売されたのです。
 で、この「式神の城U」は、第3作となった「式神の城U」をもとにした小説です。正直なところ、僕自身はゲームをあまりプレイしていないので、ストーリーに関する予備知識などほとんどなしに小説を読み始めました。率直な感想としては、面白いです。ゲームの小説版としてではなく、「式神の城U」というひとつの小説として楽しむことができます。
 「前」と「後」、「甲」と「乙」などのように、対になる言葉が冠された同名の小説が出ると、どうしても「前編・後編」とおいう発想をしてしまいがちです。しかし、これは違いました。タイトルどおり「陽」と「陰」、つまり「表」と「裏」の物語なのです。
 「陽の巻」は、ゲームでも主人公として活躍する玖珂光太郎と結城小夜をクローズアップした物語。そして「陰の巻」は、サブキャラクターの日向玄乃丈、ふみこ、金大正、ニーギ・ゴージャスブルー、ロジャー・サスケにスポットを当てた構成になっています。ひとつの時間軸で進行するストーリーを2つの視点から展開する手法は普通の小説でも多用されていますが、それぞれをまったく分けてしまうことで、1つの視点から見た時間軸を混乱なく受け入れることができ、それゆえ、両方を読み終わったあとにストーリーの関連性が明確に理解できるようになっています。斬新だけど、メリットは十分の手法です。
 「式神の城」全編を通してのキーとなる「7・23事件」が、今回も絡んできますが、前述のとおり僕はゲームをそこまでやりこんでいないしドラマCDも聴いていないので、「7・23事件」というのがどういうものなのかまったくわからないのです。そして、この小説でもその答えは出てきませんでした。どうやら、この事件に関してはある程度の予備知識を持った上で読むべきだということのようです。ですが、予備知識なしでも十分に楽しめますよ。
 さて、小説につきものなのが色恋沙汰。この小説でも健在(?)です。一つ目のカップルは、まぁ予想の範疇だったとしても、2つめ、3つめは予想外でした。特に2つ目は、両者とも第1作から登場している古豪なので、こんな裏設定があったとはまったく知らないで遊んでいたのかというかんじでした。
 最後に、今月は合併号にしました。11月のレビューはこの「陽の巻」にしようと思っていたのですが、思っていただけで11月も末になってしまい、新刊を買いに行ったら「陰の巻」が売っていて、読んだらまとめてレビューしたほうがいいような内容だったので、都合よく合併号にしてしまいました。面倒だったわけではありませんよ?なにぶん忙しいのです、私も。
 
★式神の城U 陽の巻・陰の巻
  著者:海法紀光
  イラスト:アルファシステム
  刊行:ファミ通文庫(エンターブレイン)
  陽の巻:2003年10月31日 初版発行
      ISBN:4-7577-1610-9
      定価:640円(税抜)
  陰の巻:2003年12月2日 初版発行
      ISBN:4-7577-1634-6
      定価:640円(税抜)