2003年6月:東京ANGEL リミット・ステージ
 
 
 ブックレビュー開始からちょうど1年がたちました。これまで数多くの本をご紹介してまいりましたが、今回初めて過去に紹介した作品の続編をご紹介するという形になりました。
 ご紹介するのは「東京ANGEL」シリーズ第20弾「リミット・ステージ」。以前ご紹介した「Kからの手紙」は、いわゆる“本編”となる内容でしたが、今回は言うなれば“サイドストーリー”です。この話の主人公となっているのは、本来は脇役である祥と弥生。セクション「諜報」で働く、尚也たちの同業者です。そして、弥生は尚也のクラスメートでもあります。あるきっかけで互いが同業者であることを知った尚也と弥生は、それ以来だいぶ親しくしているようです。
 日本のトップモデルである祥と高校生の弥生は、とても仲のよい“兄妹”です。少なくとも表向きは。仕事のパートナーでもある二人は、息のあったコンビネーションで次々に課せられる仕事をそつなくこなしていきます。ですが、そんな2人の間にさえ秘密があったのです。それも、当事者である弥生自身は何も知らず、祥だけが知っている秘密。
 今回の話は、以前「レッド・シャドウ」の中で収録された「ピアス・メッセージ」の続編となります。脇役がメインのサイドストーリーでありながら続編が執筆されるのは、ひとえに祥と弥生の人気の高さゆえです。脇役の中でも、主役の2人と特に結びつきの強い祥と弥生は、これまでのほとんど全ての作品に登場し、その存在感たるやすごいものです。その中で、2人の暗い一面などの垣間見え、本編にも臨場感を加えているのです。
 前作に続いて続きものとなっていますが、さて、“兄妹”の運命やいかに・・・・。
 と、「リミット・ステージ」の話はこれくらいにして、次にいきましょう。

 なんのことかって?

 今回の「リミット・ステージ」には、著者の本沢みなみさんがデビューするきっかけとなった、第24回コバルトノベル大賞佳作入選作「ゴーイング・マイ・ウェイ」が収録されています。こちらの作品は「東A」と違って、僕が苦手としている一人称視点の物語です。
 主人公は典型的な不良高校生の麻希。物語は、麻希の視点で進んでいきます。サボリの常習犯である麻希が、ふと「学校に行こう」と思い立って家を出たはいいものの、学校までの道を正確に通っているはずなのになぜか同じところをぐるぐると回ってしまう。嫌気が差して駅前にゲームセンターに向かった麻希が見たのは、クラスでは優等生で通っている片山の姿でした。優等生が学校をサボってゲーセンで遊び呆けている。しかもかなり凄腕のプレイヤー。あっけにとられた麻希ですが、その場は片山とともに学校へ行くことで水に流します。
 麻希の不良仲間である孝之。周辺の不良たちのボス的存在の彼には、大きな秘密があるのでした。いつもは気さくに振舞う孝之の、家庭での裏の姿を、麻希はあるきっかけで知ることになります。そしてそこにも、例の片山少年が関わっているのです・・・・。
 本沢さんの小説によく見られる「人間の裏の姿」。そのさきがけとなっている「ゴーイング・マイ・ウェイ」は、非常に日常的な部分で「裏の姿」を表現しています。「東A」では非日常な部分を描いていますが、さて、ひとによっては好き嫌いが出る作品かもしれません。
 古い作品と新しい作品がひとつになった今回の1冊。本沢さんの執筆力の向上ぶりがよくわかる1冊になっているのかもしれません。
 
★東京ANGEL リミット・ステージ
  著者:本沢みなみ
  イラスト:宏橋昌水
  刊行:集英社コバルト文庫
  2003年6月10日 初版発行
  ISBN:4-08-600277-9
  定価:419円(税抜)