私は戦争が嫌いです。人と人とが互いに憎しみあい、互いを殺し合い、そしてあろうことか、殺した本人は敵を倒した英雄として評価される。人を殺したという事実を棚にあげ、「自分は英雄だ」と平気で言ってのける。私は、そんな人間が大嫌いです。
イラクへの軍事的緊張が高まる中、私は、この緊張状態を一気に晴らすことができるような、そんな魔法のような大発見があったらどんなにいいだろうと、この「アリソン」を読んで思いました。その意味で、彼ら―――アリソンとヴィル、そしてカー少佐が非常にうらやましく、同時に恨めしくも思います。
この「アリソン」を書いているのは、依然このブックレビューでもご紹介した「キノの旅」の著者でもある時雨沢恵一さんです。キノの旅は、時間がたいした意味を持たない物語でありました。正確には、時間経過、が。ですが、この「アリソン」は、いわゆる“普通”のシリーズものです。前作「アリソン」で繰り広げられた3人の物語は、今作「アリソンU」で、新たに“4人の物語”となって再登場します。
世界はひとつの大きな大陸からなっています。その大陸を東西に分断し、ロクシアーヌク連邦・通称“ロクシェ”と、ベゼル・イルトア王国連合・通称“スー・ベー・イル”が永きにわたって敵対関係を続けていました。大陸の中央には、1万メートル急の山々が連なる中央山脈と、広大なルトニ河があり、暫定的に双方の国境となっています。
ロウ・スネイアム記念上級学校の5年生であるヴィルと、ロクシェ空軍伍長でパイロットのアリソンは幼馴染。そして、スー・ベー・イル空軍士官で少尉のカー・ベネディクトは、あるきっかけから2人と知り合い、前作では3人で両国の敵対関係を一気に解消するほどの大発見をします。英雄となったカーは少佐に昇進、ヴィルとアリソンは何気ない普通の生活に逆戻り、というのが前作まで。
上級学校の観光合宿でイクストーヴァ王国へとやってきたヴィル。学校の友人と2人で街を散策している途中、黒ずくめの男たちに拉致されてしまいます。車の助手席に乗せられたヴィルの隣に座っていたのは、空軍の制服に身を包んだ金髪の少女でした。空軍合同演習のために滞在していたカーと再開し、そして、彼らはまたも事件に巻き込まれます。さて、今回はいかにして英雄へとのぼりつめるのか。
現在の世界で、王国と名乗る国はそう多くはありません。また、名乗らなくても事実上の王国である国もあります。立憲君主制と呼ばれる統治体制をしいている国がいわゆる“王国”にあたり、日本もそのうちのひとつです。イギリスの王室に比べ日本は皇室といいますから、いわば“日本皇国”というわけです。王位継承の原則として、いわゆる「長子継承権」があります。イクストーヴァも例外ではないようで、ただ、それが双子だった場合はどうなるのか。イクスでは、“こうなる”ようです。
どこまでも仲のいい、と言っていいのかわかりませんが、そんな2人のおかしなやりとり、そして「キノの旅」にも見られるような奇抜な作戦。お楽しみくださいませ。
今回のあとがきは、「よこがき」です(笑) |