2003年2月:風の聖痕3 月下の告白
 
 
 中国には「陰陽五行」というものがあるそうです。この世界を形作るものとして、木・土・火・水・金の五つがあるとし、そのそれぞれに陰陽の二つを当てて計十とし、これを「十干」と呼んでいます。「十干十二支」と聞けば皆さんにも馴染み深いでしょう。
 「炎術師」と聞いたとき、私はまずこの「陰陽五行」を思い浮かべました。日本を舞台にした超魔術使いの話には、この「陰陽五行」を元にしたものが非常に多く、大自然の力を源にして悪を討つという大義名分の下、街中にあふれている公共物や建物をかたっぱしからぶっこわすという、「いかにも」な小説が世の中にはあふれています。
 私自身、自然というものに興味があるせいか、この手の物語には目がなく、ついつい買って読んでしまうのですが、この「風の聖痕」のそのうちの1シリーズであります。ちなみに、「聖痕」と書いて「スティグマ」と読み、これは英語の「stigma=(奴隷や囚人に押した)焼印」を意味するもので、カトリックの用語としては立派に「聖痕(せいこん)」とあります。(EXCEED英和辞典より)
 第1巻でまず登場する炎術師の一族、神凪家。物語のヒロインである神凪綾乃は、この神凪家の次期当主となる齢16の女子高生であります。そして主役級脇役((゚Д゚)ハァ?)である神凪煉、12歳。こちらも炎術師として類まれなる才能を持つ、弟属性バリバリ、純粋無垢なな少年です。はるか昔に炎の精霊王より依頼を受けた神凪家は、それ以来最強の炎術師一族としてこの世に生を受け続け、君臨してきたのでした。しかし、そんなに一族にも中にはできの悪い子供(この場合は炎術の才能を持たないということ)もいるわけで、それがこの物語の主人公、八神和麻22歳であります。炎術の才能を持たなかった和麻は、幼いころに神凪家を追放され、ひとり放浪のたびに出ます。そして4年後、風術師として日本に帰国、以降神凪家、とりわけ綾乃となんだかんだで関わっていくことになります。
 風術師が出てきた段階で、私は自分の間違いに気づきました。曰く「陰陽五行なんて関係ないじゃん」。そうです、陰陽五行には「風」などという要素はないのですから、これは陰陽五行を元にした物語ではないということです。そしてこの間違いは、今回の第3巻で決定的な裏づけを得ることになります。曰く「地術師ぃ?」。
 今回の物語、舞台は富士山の地下です。ご存知のとおり、富士山は宝永の大噴火以降も活動を続けているれっきとした活火山で、もう300年ほどその噴火は抑えられています。作中では、その噴火を抑える役割を担っているのが地術氏の一族、石蕗家だという設定になっています。そしてそのやり方というのが、これがまたいかにもありがちな「生贄」なのです。おおよそ30年に一度、石蕗家は一族の中から一人を選定し生贄としてささげることで、富士山の地下深くに眠る「魔獣」の気を静めてきたらしいのです。そして、近くのその儀式が行われるという中、生贄になることが決定している少女に、よりにもよって煉くんが恋をしてしまうところから物語は始まります。
 このシリーズのよいところは、よいところと言っていいのかわかりませんが、とにかく「最強なのは主人公」ときっぱり言い切っているところでしょうか。主役連中、とにかく「俺が最強」とか「我らが最強」などと言い切ってはばからない連中ばかりです。それが一種すがすがしいというか、謙遜という言葉を知らずに堂々と言ってのけるところがまたかっこいいというか。
 逆に、戦闘シーンやストーリー構成があまりにもありきたりなため、私みたいに自然超魔術とか、あとは「女子高生萌へ」とかっていう人以外はあまり惹かれないシリーズかもしれません。中ボスをやっとのことで倒したら、もっと強いラスボスが出てきて四苦八苦、ついに主人公の奥の手発動!というのとか、主人公とヒロインがあからさまに惹かれ合ってるとか。こういう格闘系小説のヒロインは総じて野蛮で強気で短気というのが相場なんですが、逆におしとやかでのほほんとしているような性格のヒロインだったらどんな物語になるんでしょうねぇ。
 見所は煉くんの初恋ラブラブ大作戦と、300年ぶりの富士山大噴火!!その瞬間をあなたも是非その目に焼き付けてください。
 
★風の聖痕3 月下の告白
  著者:山門敬弘
  イラスト:納都花丸
  刊行:富士見ファンタジア文庫
  2003年2月25日 初版発行
  ISBN:4-8291-1494-0
  定価:580円(税抜)