2003年1月:バイトでウィザード 流れよ光、と魔女は言った |
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新年明けましておめでとうございます。本年も読書月記は「毎月更新」をモットーに、よりすばらしい本を皆さんにご紹介するべく精進してまいります。どうぞよろしくお願いいたします。
さて2003年最初のブックレビューは、実は今月の新刊ではないのですが、第6回角川学園小説大賞『大賞』受賞作「バイトでウィザード」をご紹介します。管理人の大好きな小説のジャンルは主に3つ。SF・中華ファンタジー・そして学園モノです。ところが、学園モノというのはあまり種類がなく、といいますのも「学園生活」というかなり型にはまったものが題材であるために、話題を膨らませにくいということがあるのです。管理人自身も及ばずながら学園小説を執筆していたりするためにこのあたりの事情は良くわかるのです。そして種類がもともと少ないために、本当に面白い学園小説にめぐり合うのはかなり低確率といえます。
が、しかし。そんな中にあって角川学園小説大賞で『大賞』を受賞したこの「バイトでウィザード」。ファンタジーも好きな管理人は「ウィザード(魔法使い)」というタイトルに強く惹かれたのでした。そしてタイトルとともに、とても単純な(?)感じのするジャケットイラストにも強く惹かれ、1ヶ月ごしで購入を決意しました。
主人公は男と女の双子高校生。兄・京介は何事にもクールで格闘技にもめっぽう強い「永久凍土の心を持つ男」。対して妹・豊花はいつでもどこでもハイテンション、思ったことはすぐに口にも行動にも出る「わが道を行く女」。虹原高校の1年生である2人のもうひとつの顔が「光流脈矯正術師」という、まぁ平たく言えば“魔法使い”。学ラン・セーラー服・魔法の杖に黒マントという、なんともイレギュラーないでたちの2人は、顔をあわせれば喧嘩ばかり。実際、2人が仲良く共にすごしたり、街に繰り出したり、などというシーンは全くありません。そんな2人のいとこであり、同じく矯正術師である健也、アメリカに住む兄妹の親友・ジェニファー、さらに真面目一辺倒の風紀委員コンビ。とにかく個性の強いキャラクターばかりです。と、まぁここまで紹介した中に、実は今回の話のラスボスともいうべき人物が潜んでいたりするのですが。
本文によると、「光流脈」というのは虹原市を中心として世界中に広がっている神霊力の源で、地上に何かやましい考えを持った人間が現れると、その周辺の光流脈に支障をきたす、と。そしてそれを修正するためにいるのが、豊花たち矯正術師というわけです。この矯正術の力を持つのは、ある単一の家系のみで、つまり血のつながっていないものにはその力がない。ということは、ジェニファーと兄妹が「親友」だと先ほどご紹介しましたが、実は遠い遠い親戚でもあるわけです。その親戚が世界中に散らばっている、と。なんだか嘘のようなホントの話です。
あらすじとしては、矯正術という名の“魔法”をふんだんに使ったストーリーで、よくありがちな「術者にしか見えないモンスター」も健在(?)です。そして、学園生活と魔法使いをうまく織り交ぜているようで、実はそうでもありません。あえて批判をするならば、舞台が学校でなくてもなんら問題はなく、高校生が出ているから学園小説なのかな、という気がしないでもありません。しかし、高校生特有の破天荒さをものの見事に表現しているため、というか、こういった破天荒さを表現するには高校生という人物像でしか出来ないためにこうなったのではないか、とも思えます。管理人のような「ファンタジーが大好きな学生」には非常に面白い設定ではありますが、別に高校生である必要はなく、高校を中退した少年少女でもいいし、卒業した後の若者でも問題ない。大人っぽさの中の幼さを表現するためには高校生というのはうってつけだった、というだけの話です。
さらに、京介の寡黙さはどうやら生まれつきのもの、というか幼い頃からのものではないらしく、それならばそれ相応の理由があるはずなのですが、そういった部分にもほとんど触れていない。どうにも、のっけから続きもの狙いの構成。コンテストに出す作品がこうでいいのか、と思ったのはこれがはじめてではありませんが、今回は少しばかりそれが強かった気がします。
とはいえ、この小説が管理人にとって非常に面白いものとしてメモライズされたことは言うまでもなく(こうしてレビューを書いてるわけですし)、どうやら作者である椎野美由貴氏もとても天真爛漫な方のようで、それは巻末の「作品解説」に書かれています。
さて、この「バイトでウィザード」は12月28日に発売された雑誌「ザ・スニーカー」で連載が始まったようで、作者自身も既に2巻目の執筆に入っているとのこと。発売は3月くらいとのことです。近作がデビュー作の作者ですが、実は角川学園小説大賞には以前1度応募したことがあったそうで、今回見事にリベンジできたというわけですね。
クールな少年とハイテンションな少女がここまでうまく調和した作品はそうそうあるものではありません。これからも2人の活躍ぶり、とりわけ豊花の暴れっぷりには注目したいものです。 |
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★バイトでウィザード 流れよ光、と魔女は言った
著者:椎野美由貴
イラスト:原田たけひと
刊行:角川スニーカー文庫
2002年12月1日 初版発行
ISBN:4-04-428701-5
定価:514円(税抜) |
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