2002年12月:東京ANGEL 「K」からの手紙
 
 
 1ヶ月お休みしましたブックレビュー、さて12月は、半年ぶりの新刊発売となりました「東京ANGEL」最新刊「『K』からの手紙」をご紹介します。
 まず、シリーズ概要から。東京ANGEL、通称「東A」は、1995年10月の第1作発売以来、今作でなんと18作目を数えるロングシリーズです。主人公は2人の高校生。福岡出身の元全中陸上チャンピオンと、日本有数の大企業の御曹司、久保尚也と津田聖。かたや勉強全くダメの体育会系、かたや学年1位の秀才。そんな二人が持つ裏の顔。それが、「暗殺者」。
 主人公の2人に加えて、こちらも非常に人気のある脇役たち。「同業者」の湊・雪子の女子高生ペアや、同じく「同業」の弥生・祥の「兄妹」コンビ。そして、個性豊かなクラスメイトたち。
 今回の「『K』からの手紙」は、過去の作品に登場したキャラクターが、ほぼオールキャストで出揃っています。総勢で20人以上を数えるのではないかというくらい、今回は登場人物が多いのです。ですから、読書慣れしている方でも、場面の相関関係を整理するのが大変かもしれません。僕なんかは、もうひっちゃかめっちゃかでした。ですが、逆に言えば、今までの作品で張り巡らされてきた伏線が一本につながってきている、とも言えるわけで、シリーズ当初からのファンにとっては待望の展開といえるでしょう。その意味で、多くの登場人物が登場していることは、それぞれの伏線が複雑に絡み合い、また本線を巻き込んでいくということなのです。ですから、今作を楽しむためには過去の作品を総ざらいしておかないと、ということになります。
 さて、タイトルにある「K」とは何者か。タイトルのとおり、この物語は「K」から手紙が届くところから始まります。その内容はたった一言、「困ったときには相談を」。そして、この「K」と名乗る人物が、今回の物語の重要な鍵を握ることになるのですが。しかしこの「K」、読み手の予想を大きく裏切ってくれます。それはもう、いろいろな意味で。ストーリーの概要は、尚也たちが属するある組織に以前所属していた1人の少年が、組織に対して反旗を翻し(と言ってもすでに脱退してはいるのですが)、その大きな波に尚也たちも巻き込まれていく、という展開です。この少年も、過去の作品ですでに登場した人物で、そのときの登場当時から組織に対して反抗心を持っていました。そのせいで仲間を一人失うことになったのですが、その仲間を殺したのが、他ならぬ尚也と聖だったのです。
 そんなわけで、シリーズは大きな転換期を迎えているといっていいでしょう。さらに、今回はシリーズ始まって以来の”続き物”です。しかも、先の展開が全く見えないという状況。読み手の創造を大きく膨らませてくれる終わり方で、「早く続きが読みたい!」という衝動が抑えられない感じです。
 作者である本沢みなみさんは、1994年のコバルトノベル大賞で佳作入選し、「東A」のほかに「新世界」シリーズを書いてらっしゃいます。そちらのほうは僕は読んでいませんが、「東A」と違って幻想世界の話になっているようです。日常の中に非日常をたくみに描き出す技法が読者の反響を呼び、「東A」シリーズは多くのファンに親しまれているシリーズです。
 非日常から抜け出せない2人の少年。彼らを襲う最大の危機を、彼らと仲間たちはいかにして切り抜けるのか。そして「K」の目的とは一体何か。ターニングポイントを迎えた「ANGEL」たちの活躍を、ぜひあなたも味わってみてください。そしてできたら、これまでの活躍もごいっしょに。
 
★東京ANGEL 「K」からの手紙
  著者:本沢みなみ
  イラスト:宏橋昌水
  刊行:集英社コバルト文庫
  2002年12月10日 初版発行
  ISBN:4-08-600170-5
  定価:419円(税抜)