---注意---
・お酒飲める年齢
・二人は特に付き合っていない(重要)
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その日のラジオのゲストが同期だったのがすべての始まりである。

学生時代の実習を含めてそれなりに長いことやっているネットラジオのゲストに同期で唯一女性アイドルとしてデビューした友人であったのに加え、もともと大変話上手な彼女とのトークが大いに盛り上がるのは当然のことであったのである。不本意ではあるがいじられ担当である自分はともかく、ラジオの相方である真斗の学生時代のアレやコレや言ってはいけないかなりギリギリの思い出を同じクラスだったという強みから披露して番組の空気を暖めたその回は大変な盛り上がりをみせたのである。そしてスタッフも含む笑いに包まれた収録も無事終わり飯でも行こうぜと居酒屋に雪崩れ込み最近の仕事だとか新曲の出来だとかの話をして酒が進み、難しいこともなにもない愉快な場を設けていたのである。



まわってきたアルコールに気分をよくした翔が水が入っているかのようにグラスを傾ける友千香に「相変わらずお前全然顔色変わんねえな、酔っ払ったりしねえの?」と尋ねるまでは。







その言葉に凍りついたように動きを止めたのはなぜか真斗のほうで、いや来栖、渋谷はこう見えてだいぶ酔っている、と重々しい口調で言った。え、なにこの空気。俺なんかまずいこと言ったの?
言われた友千香のほうは、マサやんの言うとおりよ翔ちゃん。あたし結構すぐ酔っ払うんだけど顔に出ないだけだからさと軽い返答を返したが、翔は真斗の醸し出す謎の緊張感にこれはなにかあったな、と気がついた。ああ俺ってどうしてこういうとき気づいちゃうんだよ、なんだ、なんなんだ。酔っ払った渋谷になにかされたことあんのこいつ。え、なにそれ。口で言えないこともしかして。…うわあ聞けねえ!なんか聞いたらだめだろそれ!!

どうしたらいいの俺。こんなときどんな顔していいか分からないの状態で翔がどういったツッコミを入れればもしくはどうやってごまかして気がつかなかったふりをすればこの場が綺麗に収まるのかをフル回転で考えていると大変大真面目な顔で真斗が「それで思い出した」と口を開いた。
自分の口元を隠すように手をやり、渋谷に聞きたいことがあるんだがと続けた真斗に言われた友千香本人はよいよい、聞いたげましょうとグラスを置き腕を組んだ。視点は真直ぐに真斗に向けて、どうしたマサやん。なんでも答えてやるぜいと続けた。真斗は言った。



「どうしたら」
「なになに?」
「どうしたらお前の度肝を抜かすことができるんだ」



こいつは何を言っているのか。突然人に何かを聞くことがあるとして、何でも答えると相手が大盤振る舞いをしている状況で、尋ねることがよりによってそれかよ!!今このタイミングでどういう質問だよそれ!!っていうかどういう意味だよ!!なんかあんまり考えたくねえよ!!っていうか聖川お前も完全に酔ってるだろ眼が据わってるんだよ眼が!
もうこの状況は俺だけでは無理だ、他のやつらも呼ぶしかない、と携帯を鞄から出そうとしたところで続けられた真斗の台詞に酒の力も大いに手伝ってオーバーヒートした翔がごちん、とけたたましい音を立てて頭をぶつけるのは仕方のないことであった。




「俺は少なくとも2回、お前の度肝を抜き返さないと男が廃るのだ」




なにがあったんですか、おまえらは。マジで。













「度肝?」
「そうだ」
「ええとねえ、びっくりしたことといえばこないだコンビニに行ったらマサやんがいたことかな」
「…なぜだ?」
「だってマサやん、コロッケパンの存在すら知らなかったじゃない?パックおにぎりの存在すらしらなかったじゃない?それなのにコンビニでアイス買ってるんだもん、そりゃびっくりしないでかって話でしょ」
「アイスを買うだけで驚かれるものなのか。あれはうまいぞ、今度ひとつやろう」
「いやーマサやんも大人になったんだなーと思うともうびっくりするやら泣けてくるやらだよねえ」

うん、びっくりしたねあれは。ここんとこで一番びっくりした。もう十分マサやんにはびっくりさせられてるわあたし。だいじょぶだいじょぶ、マサやんは男だ!立派な日本男児だ!と力強く宣言された真斗の横でもちろん翔ちゃんもね!とウィンクされるに至った翔は考えるのを完全にやめてこの場を楽しもうと思った。ああ懐かしき学生時代。あな恐ろしきかなAクラスのボケ。目の前には酔っ払いが2人。そして自分も酔っ払い。
よって、自分が思うがままの台詞を叫ぶことにしたのである。











「そんなとってつけたように言うなら言わなくていいっつうの!」

09. #d7c447





つきあってません(これ見てつきあってると思うほうが不自然)

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