昔の映画を見て感想文を書く、という課題が出されたのだという。何人かずつに分けられたグループごとに何を見るかは例によってくじ引きで決められたのだが「動物さんが出る映画だといいなあ」などと言いながら笑顔で那月が引き当てたものはあまり聞いたことのない名前のSF映画であったのだという。携帯で調べてみたところ人類と地球外生命物体との戦争もの。表示された画像がどう好意的に見ても巨大昆虫型であったため、携帯で調べた一人とそれを横から覗き込んだ一人はこいつはまずいと顔を見合わせた(なお、くじを引き当てた一人にとっては虫型エイリアンも動物の域にあったらしく笑顔であったのでことの重大さに気がついてはいなかったらしい)。ああ、なんということでしょう残念ながらこの面子の中にはこの映画を一人で見せるには可哀想な結果になるものがいる。それで、どんな映画なんだ?などと首をかしげる何も気がついていない可哀想な結果になることがわかりきっている友人のために、携帯で調べた一人である音也はえっと、それは見てからのお楽しみにしよう、と大変苦しい言い訳でどうにかその場を乗り切るにいたった。えっと、これさ、みんなで一緒に見たほうがいいよね、DVDも一枚しかないし。あ、それ名案。そのほうが早いし、感想書き易いしね。わあ、みんなで一緒に上映会なんてとっても楽しいですよお。そしたら俺の部屋にしようよ、最近トキヤいないから広く使えるし。なんかバイトが忙しいらしくて夜遅くまで絶対帰ってこないよ。友人思いの彼らはみんなで見ればどうにかなるだろうと考えてそういうことになったらしい。その話がAクラス内で出たのは今日の午前中の話で、その話を部屋の住人の一人、夜遅くまで絶対に帰ってこないことになっていたトキヤが聞いたのは30分ほど前のことであった










今から、今からこの部屋に人が来る。この散らかりきった部屋に!頭を抱えそうになる手をどうにか押さえて、部屋を見回す。自分の陣地はまだいい。ここのところ忙しく帰って寝るだけだったのだから散らかりようがない。問題は同居人のほうである。あっちこっちに雑誌散らばり、残りが半分ほど入ったペットボトルが放置され、制服はかろうじて椅子にかけられてはいるが袖は皺が寄り、脱いだシャツやらなにやらが床に散らばっている惨状である。大体、床に直接飲みものを置くだなんてどうかしている。
忙しかったバイトという名目の仕事の収録がひと段落ついたので珍しくこの時間に帰ってみればこの部屋に人が来るのだ笑顔で言うのだこの馬鹿は。だから毎日まめに掃除をしろと何回も、とそこまで考えてそんなことをしている場合ではないことに気がついた。時計を見ればあと残り時間は後10分を切ろうとしていた。即、行動あるのみであった。

「音也」

苛立ちを隠すこともなくむしろ前面に押し出して呼びつけたにも関わらず、呼ばれたほうは勢いよく手を挙げて「はいっ」という大変元気の良い返事を返す。ああこの馬鹿ときたら。所詮は他人なのだからここまで口を出してやる必要はない。それは分かっているのだ。しかしもう8ヶ月近くも一緒にこの広くない部屋で暮らしているのである。あまりに自分とは違いすぎる異物と暮らした8ヶ月はその異物を無視することがなかなか難しくなってきていた。

「元気良く返事をすればいいというものではありません」
「はい?」
「疑問系で返事をしろと言っているのでもありません!そこに座りなさい。…いや、その時間がもったいない。この状態で人を呼べるとは思っていないでしょうね」
「え?あ、ごめん。トキヤいるのにうるさくなっちゃうと思うんだけど…」
「そこじゃありません!」

とにかく床を!せめて床を見えるようにしなさい!と脱いだばかりらしい衣類をまとめて押し付ければ、手にしたものを見てようやく理解したのか、そっか!と音也は納得したようにうなずいた。

「このままだと5人座るのはきついもんな」
「そうです。分かったならさっさと片づけを…5人?」
「俺とーマサとー那月とー友千香とー、あとトキヤ」


なぜ私まで一緒に課題をすることになっているんですか!とトキヤが落ちていた雑誌でその赤い頭を思い切りはたいたのは20分ほど前のことであった。










この馬鹿がみなさんがいらっしゃるというのに散らかし放題で片付けに時間をいただくことになりました。すみません、と謝ればAクラスには3人は口々に気にしないでくださいー、もともと私たちが一方的にお邪魔してるわけだし、気を使わせてすまない、と逆に頭を下げられてしまった。いい意味でも悪い意味でも細かいことを気にしない彼らは扉の前でしばらく待たされたことはまったく気にしていないようで、眉を下げごめんねと謝った音也にも気にしなくていい、という言葉を同音異句で口にした。
そんな気にしないでいいって。はい、大丈夫ですよー。気にするな一十木。ところで10分待ってって言われたんだけど10分で片付くもんなの?えっとね10分中3分が片付けながらのお説教で、残り7分が本気の片付けって感じだった。トキヤって凄いよね、超怒ってるのに手とか止めないんだよ。さすが一ノ瀬、頼りになるな。トキヤくんすごいですー。一ノ瀬さんって片付け得意そうだもんね、さすがだわ。
ああなんと眩しい。他意のないきらきらとした瞳で褒め言葉をぶつけられるなどあまり慣れていないトキヤはその4対の色とりどりの瞳たちを直視することができなかった。恐るべしAクラス。
…ああもう私のことはいいですからあなたたちはさっさと課題をやってください!
半分照れ隠しの言葉を全力でぶつければ集まった面々はそうだったそうだったとようやく準備を始めだす。じゃ、テレビの前に集まって集まって。ちゃんとクッションだしといたから!あ、マサやん真ん中座りなね、いざってときのために。じゃ、マサは俺と友千香の間ね。いったい何があるというんだ?気にしない気にしない。それじゃあトキヤくんは僕の隣ですね。
なんですって、今なにか聞こえませんでしたか?一息つこうとコーヒーの準備をしていたトキヤの名を、にこにことこぼれそうなくらいの笑顔を振りまいて集まったうちの一人が名を呼ぶ。無碍にすることもできず、なんですかと尋ねれば「トキヤくんは僕のお隣にどうぞ」とのこと。なぜ自分まで参加することになっているのか!初めからメンバーであったかのように!!言葉にならない言葉をもってテレビの前に置いたテーブルの前に目をやればなんとも自然に自分のためのクッションと場所が用意されている。ああ一ノ瀬、忙しいのであれば気にしないでくれ。なかなかお前と話す機会もないのでよければと思ったんだ。そうそう一ノ瀬さん忙しいって聞いてるし、もし時間あれば気分転換に一緒にどうぞ。真面目な一人と紅一点からも朗らかな調子で声をかけられ、ついにトキヤは額を押さえた。気を、つかわれているのか!狙ってやっているのかいないのか、いないのか、いないのだろうな!これは確かに疲れる、いろいろな意味で。少し前にAクラスに混じって課題をこなした友人の言葉が蘇る。あいつらほんといい奴らなんだけどさ、いやなんつうかツッコミがおいつかない。マジで。そういう意味で疲れる。ああほんとうですね翔。あなたの言ってることは間違っていない。
しばしの沈黙の後、それでは少しだけお邪魔しますといえばわあいと歓声が上がった。何がそんなに楽しいのかは聞かないことにして、客人のコーヒーを準備すべく食器棚からカップを3つ追加したのがたった今しがたのことである。


















「マサやん、見る前に言っておくけどこれから出てくるのはね、全部宇宙外生命物体だからね」
「どうした渋谷、そんな真剣な顔で」
「いい?地球上の生き物じゃないの。宇宙外生命物体。地球上に似たような生き物がいたとしても別物だからね」
「わかった。お前がそういうならそうなのだろう」
「途中で僕をぎゅーっとしてもいいですからね!」
「俺の手握ってもいいからね」
「ほんとに駄目そうなら鳩尾に一撃やったげるからね」
「ああ、ありがとう」
「具体的にどんな内容なのかを疑問に持ったほうがいいと思います聖川さん」

07. #9b7cb6





元ネタはスター×ップトゥルー×ーズですがあまりのグロさに泣きました。宇宙ヤバイ。

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