ただいまあ、と勢いよく扉を開けて帰ってきたのはこの部屋の住人の一人であった。生き物を飼ってはいけないという規則を「部屋汚さないなら別にいいよ」の一言で切り捨てた彼女はやー疲れた疲れたと独り言を言いながらハーフブーツを毟りとるように脱いだところで自分を見つけたらしい。おかえりなさい、と一声鳴けば彼女は今帰ったぜぃと椅子の上で丸くなっていた自分の頭にぽんと左手を置く。右手にはなにやら中身がたくさん詰まったビニール袋を持っていて、背筋を伸ばしてその袋をつついてみればああこれね、と彼女は苦笑いを浮かべた。買出し行ったらスーパーで物産展やっててさあ、思わずこんなに買っちゃったよ。実家出てきてまだそんなに経ってないのにホームシックかねえ、これも。
あんたも食べる?と尋ねられ、日本の文化に触れることのできるチャンスですと喜び勇んで返事をすれば、彼女はそんなに食べたいのかよしよしと笑った。がさがさとプラスチックのパックを取り出し輪ゴムでとめられたそれを開けたところで、そういやこういうのってあんた食べても大丈夫なの?と彼女は首を傾げたが、まあメロンパン食べるし大丈夫かと納得したらしく、なにやら香ばしいにおいのするものと甘いにおいのするものをひとつづつを自分の皿に乗せてくれたのであった。














「あ、ちょうどよかった。これから那月とマサと晩御飯行くんだけどセシルも一緒にどう?」
「ありがとうございます。ではご一緒します」
「まだ何を食べるか決まってないんですよ。せっかくだからセシルくんの好きなものにしましょう!」
「それがいい。愛島は何が好物なんだ」
「セシルはほら、メロンパン好きだよな。マサもかなりのメロンパン好きだけど」
「この時間だとパン屋が開いていないだろう一十木」
「そっかー。じゃ、なにがいっかなあ」
「何か日本の食べ物で好きなものはありますか?」


仕事上がりで疲れているだろうにわいわいと賑やかに楽しそうに顔を覗き込んでくる目の前の3人を順番に眺めセシルはしばし首を傾げて考えた。そして脳裏に蘇る香ばしいにおいと甘いにおい。そういえばあれからずいぶん経つがあの時以来口にしていない。買ってきたというのだからどこかで売っているのだとは思われるのだが探し方が悪いのか見つけたことはなかった。似たようなものを見つけても書いてある名前が明らかに違うのだ。
どこで食べられるのか、すみません、ワタシは分からないけれど、と前置きしセシルは言った。










「でこまわし」














「えっな、なに?なになに?それ食べ物??」
「ううん、俺も聞いたことがないな」
「ごめんなさい僕もわからないです。調べてみましょうか」
「ほかに何かないのセシル」
「ええと、…はんごろし?」
「えっなにを!?」



05. #814721





徳島/名産/おいしい で検索した結果とても楽しい気持ちになりましたよこばなし。
以下ウィキペディアより参照。

・でこまわしとは、徳島県の郷土料理で、サトイモの味噌田楽である
・はんごろしは、主に徳島県那賀町で作られている、もち米にうるち米を混ぜたものを半分だけ潰して作った郷土料理のおはぎである。

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