ラジオのゲスト出演が決まり、話を良く聞けばパーソナリティは同じ事務所の先輩であった。そのことをたまたま友人に話したところ、友人はいたく喜んでくれ「そうだ!はじめましてだと緊張しちゃうかもしれないから一度部屋遊びにきなよ!れいちゃんには話しつけとくからさ!」と大変明るく請け負ってくれたのが数日前の話。

そして今、呼んでもらった部屋の扉をノックしたところでまず初めに感じたのは破裂音であった。



「ようこそウェルカム歓迎降臨!よく来たねセッシー!さぁさぁあがってあがって?ご飯食べてって?おにーさん今日のために腕によりをかけて準備したからね!今日のメニューは焼きうどんとオムライスと煮物もあるし干物もあるよ!やっぱ一番のお勧めはから揚げだけどね!セッシーから揚げ好き?好き?僕ァねえから揚げには自信があるんだな、これが!ほらほらトッキー、おとやん!セッシー来たよ!ご挨拶ご挨拶ー」



先輩のいる部屋に行くのだからと入れに入れた気合を弾き飛ばされ、花吹雪と紙テープを頭に絡ませたままセシルは目を丸くした。なになに、なにがおこった?ワタシは部屋を間違えた?目を白黒させていると目の前の最上級の笑顔と怒涛の喋りを見せる男の後ろからどこか申し訳なさそうに出される2つの顔。片方はほらびっくりしてるよれいちゃんと自分と同じように目を丸くしており、片方はどうしてここまでやる必要があったんですかと腕を組んだまま溜息交じりの台詞を吐いた。その面々は良く見知った友人たちのものであったため、セシルは何とか現実に意識を呼び戻す。大変、自分から挨拶できなかったとセシルはあわてて頭を下げた。


「こんにちはレイジ先輩。愛島セシルといいます。今日はよろしく、お願い、します」


ごめんなさい、ご挨拶遅くなりました。今日は勉強に来たので、がんばっていろんなことを学んで帰りたいと、思います。緊張のせいか少したどたどしくなってしまった言葉対し、途端静かになる頭上の声。む、ワタシなにか間違えた?恐る恐る顔を上げてみれば目の前の青年はなにやら目を潤ませていた。なんとワタシは泣かせるほどわるいことしたのですか?!



「やだもーセッシーったらそんなかしこまらないでよ!今日は堅苦しいことは一切なしでオッケーですからね。ああなんか久々先輩!って扱いされたからなんかうれしくて涙出てきたよ僕。おとやんもトッキーも見習ってくれてかまわんよ!」
「そうですね。いつもたいへんそんけいしていますよせんぱいのことは」
「そうだねえ。そんけいしっぱなしだよせんぱいのことは」
「あははーありがとうーってなにその棒読み!?君らそれでもドラマ出演経験ありでしょ!?」
「なんでもいいですから早くそこをどいてください。お客様をいつまでもたたせるわけには行きませんよ…先輩?」



ついでに玄関は片付けてくださいね?恐怖しか感じさせない笑みを浮かべてトキヤが凄み、そんな怒らないでよトッキーほらから揚げつまみ食いしていいからってうわあなんで顔もっと怖くなるわけ…よし、わかった、掃除しよう!などと言いながら年長者が部屋の奥に消えていく。おそらく箒か何かを取りに行ったのだろう。

大音量と畳み掛けてくる展開に思わず呆然としたセシルに、音也は笑った。その頭上に散ったままだったクラッカーの残骸をつまんで、れいちゃんいつもあんな感じだから、やっぱり一回会っておくべきっていうのは正解だったね!と元気良く言えば、あなたにしては正しい判断でしょう、と褒めているつもりらしいトキヤもほんの少しだけ口角を上げたので、二人につられセシルも微笑み、ちょっとびっくりしました。けど、慣れたらきっと大丈夫と元気良くうなずき、肩の上に残っていたらしい紙の星をひらひらと落として見せた。











「俺も初めはびっくりしたもん。れいちゃんてしょっぱなからテンションすっげー高いからさあ」
「どの口が言うんですか。あなたは初日から完全に順応してたじゃないですか」
「えーびっくりしたのはびっくりしたよ?」
「大丈夫。今日のトキヤも十分慣れています。センパイのことをちゃんと毎日見ていないとちゃんと相手はできないです。」
「と、トキヤー、今ものすごく不本意って顔してるよー?」
「…大変不本意です」
「言わなくても分かるよ!」



ねえねえいつまで玄関先で交流深めてるの後輩ちゃんたち!ご飯冷めちゃうよ!?と件の先輩が奥から呼ぶ声がして、一人は元気の良い返事を、一人はYESと肯きを、そして一人は溜息をもってその言葉の返答とした。
溜息の一人が「そんな調子の良いことを言っても玄関の掃除はしてもらいますからね」と釘を刺したので、やっぱり慣れているとセシルが感心し、音也がそれを聞いてはじけるように笑い、言われた本人がアイドルとしてはかなりぎりぎりの表情を作るはめになるのだが、そんなことはお客さん歓迎モードに突入していてみんな急いで集合してちょうだいな!と笑う先輩その人にはまったく与り知らぬことなのである。



03. #9caeb7





海で追いかけっこエンディングで爆笑した結果がこれだよ!

back