先日のテストであんまりな出来だった子は課題出すから、それが終わるまで帰っちゃだめよ。
居残りの子は黒板に張っておくからちゃんと確認するのよお。きらりと星を出さん勢いでウインクを決め素晴らしいモデル歩きで愛すべき担任が教室の外に出ていった。その途端身に覚えがある生徒たちがわっと教卓に群がり、嘆き声をあげたり喜びの声をあげたりするのを少し愉快な気持ちで彼は見守った。隣の席の世の中の元気という元気を固めて人型にしたような友人もその多分に漏れず大変だあと駆け出して行き、紛うこと無くはっきりと書かれた自分の名前を発見し(なにぶん、彼の名字は珍しいので発見しやすいのであろう。人のことは言えないが)、うわあ居残りだあとあまり気にした様子もなく声をあげた。


「なんだ、あんまりな出来だったのか一十木」
「うん。俺的には結構できたなって思ってただけに不意打ちだった」
「まあ今回のテスト抜き打ちだったし、仕方ないんじゃない?」
「あれ、友千香セーフ?」
「セーフセーフ。私結構得意なのよ文章書くの」
「うわあ。これはまずいなあ。マサもセーフ?」
「ああ」
「那月も?」
「ばっちりですー」
「じゃあ今回俺だけ居残り?」


そっかーそれはちょっとさみしいなー。居残って復習をすること自体はどうでもよさそうに腕を組んで少年が赤い頭を揺らし首をかしげ
たところでがらりと勢い良く開かれる教室の扉。担任が返ってきたのかとその方向に4組の瞳が一斉に向けられればなぜか満面の笑みでその瞳に応えるのは小さな影。胸元で握りしめていたテスト用紙を高々と掲げ正々堂々と宣言した。


「大丈夫です一十木くん!わたしも居残りです」


えええええちょっとSクラス!わたし、作詞苦手なんです!…あー。あんたの詩、とんちんかんなことあるわよね確かに。そうか?俺は良いと思うが。あーダム決壊したりヘリ爆発したりするあまさやんの歌と似た感じあるわ。あはは、マサの歌いいよな!今度は何が爆発するのか俺凄く気になる。僕も素敵だと思いますよお、こう、気持ちがわーって弾けてる感じですよねえ。待て俺の歌のどこでヘリが爆発したというんだ。あれ、してない?ヘリじゃなくてバスだったっけ?わあ、早口言葉ですね!なぜいちいち乗り物を爆発をさせたがるんだ。


そこで再び勢いよく扉が開かれ、あらあ合格の子も課題やりたいなんて真面目なんだからあ!じゃ残ってる子は席について!とプリントの束を持った担任その人が桃色の巻き毛をふわりと揺らしアイドルスマイルそのもので微笑むに至り、意外なほど従順に友人たちが席に着く。この担任に逆らって生き延びられる自信がないのであろう。正直自分もないと少年は思う。
うわあごめんみんな、俺のせいでみんな捕まっちゃった。うなだれて謝る赤毛の友人の背を気にするなとぽんと叩いてやった。放課後の教室に居残り勉強とはなかなか貴重な体験だ、学生時代の特権だと年寄りめいた言葉をかけ、彼も静かに席をついた。
まさに一蓮托生だな、と彼はひとりごちたがしかしそれは決して不快ではないのである。












「何落ち込んでるの、今更文句なんか言わないっての」
「みんなで居残りなんて楽しいですー」
「私は元々居残りですから気にしないでください!」
「っていうか七海自分のクラスで受けなくていいの?テスト」
「Sクラスは再試私だけですから!」
「うわあすっごい笑顔」
「ああもうあなたたち仲がいいのは結構だけどせんせえそろそろプリント配ってもいいかしら?」


01. #e85298





AクラスかわいいよAクラス
※人間に戻ったらAクラスで普通に授業受けてるもんだとと思い込んでいたセシルくんがいないことが判明したので一部修正。

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