むかしむかしあるところにおとこがいました。 それはひとではなく、ようまでした。たったひとり、そこにそんざいしました。 かれはうまれたときからかんぺきなちからとようしをかねそなえ、かれをしるものはだれもがそれにしたがいました。 あるひ、かれはじぶんのしろをたてました。 しろいかべ、しろいゆか、しろのなか、しろのそと いたるところにはなのあふれる、それはうつくしいしろでした。 かれはとてもまんぞくして、そこでくらしはじめました。じぶんにしたがうものも、つぎつぎとそこへむかえいれました。そこでのせいかつはたのしく、まいにちまいにち、おもうがままに、くらしました。 よわいものはかりました。 つよいものはけしました。 そんなじかんがどれだけながれたでしょうか。 しかしいつのひか、かれはきがついてしまいました。 かれのきょうだいなちからによって、であうものはみなかれにしたがわざるをえなくなるということに。 そのいしはかんけいなく、かれのものとしてくみいれられてしまうということに。 かれはなにもかもがつまらなくなりました。 じぶんがおもうとおりにせかいがうごくということの、なんとつまらないことか。 かれはそのときから、じぶんにあらがえるものをさがすようになりました。 なにをしでかすかわからない、そうぞうもつかない、イレギュラーなものを。 ほどなくしてそれはみつかりました。 「近寄るな変態!すべて自分の思い通りになるとおごるな阿呆!」 それはうつくしいひとりのじょせいでした。 彼女はもう何度目になるだろうか、この城に戻ってきた。 正確には乗り込んできた。 彼の仕向けた追っ手にはきちんととどめを刺し、自らここへ足を踏み入れた。 いいかげんにしやがれだとか、いいかげんに消えろだとか、あとちょっと言えないような言葉と共に。 「おぬしが未練がましくわらわの尻を追っかけ回したりしよるから、関係のない輩を巻き込んでしまったのじゃ!もういい加減に諦めよ!」 「私はお前の心が変わるまで諦めたりはしない!」 「気色悪!」 「な、なにが!?」 「おぬしのそのうじうじしておる性根が気色悪いと言っておるのじゃ!腐れた根性も少しは治ったかと思えばちっともよくなっておらぬな!」 「零だって、そんな私を愛しているんだろう!?」 「薄ら寒いことを真面目な顔で吐くでないボケナス!誰がおぬしなど愛すか!」 「少なくとも、愛していたことはあるだろう!いや、そう言っておくれ頼むからお願い」 「おぬしを愛すくらいならわらわは食パンを愛でていた方がマシじゃと昔から思っておるわ!」 食パン以下。 小さな少女から繰り出されるがつんと音が聞こえるかのような痛烈な言葉に男は心臓を押さえてよろめく。 これだ。 これなのだ。 私が求めているのはこれなのだ! 「やっぱりこれがないと私は駄目なんだ!零!帰ってきておくれ!」 「お断りじゃこの超絶マゾめが!愛らしいおなごを山のように連れ込んで幸せに引きこもっておれ!永遠にな!」 「いくら寵姫達を集めてもこれほどまでにパンチの効いた言葉をくれるのはお前だけなのだ…!」 「ええい最近の姫どもも根性が足りぬ!わらわが直接たたき直してくれるわ!」 「あっちょっと零ストップストップ!白薔薇はやめてよ、あの子は貴重な癒し系なんだから」 「馬鹿めが!貴様の目は腐っておるのう。白薔薇はわらわの一番弟子じゃ」 「なんということだーーー!!!」 思いがけないその事実を知り、針の城に響き渡る、男の咆哮。 それに混じるは驚愕と、歓喜。 自分の知らないところで、思いも寄らないことが起きるという奇跡。 なんという幸福。 かれはしっているのです。 かのじょをとらえることはえいえんにできないでしょう。 かのじょをいのままにすることはけっしてできないでしょう。 しかし。 しかしそれだからこそかれは。 「お前が好きなんだーーー!!!」 「逝け」 「…幸せだなぁ」 「苦しんでのたうちまわって逝け!ドアホ!」 おわり |
周りの姫達も部下達も『あーまたやってるやってる』くらいの態度で良いと思います。心から崇拝してるのはセアトくらいであとは『しょうがないなあ、でもあの方力は強いから逆らえないしなあ』ぐらいの扱いオルロワージュ。零姫はあと1000年位したらオルロワを許してやってください(気の長い話) |