まほう



「おはようございます陛下。御加減はいかがですか」

今日は天気がよろしゅうございますよ、と彼女はひさしを少しだけ上げ、ベッドに身をもたせているローザリア国王に柔らかな笑顔を向けた。


「ああ、ディアナ。今日は天気がいいから気分もいいな」

「まあ、お元気な様子で嬉しいですわ。もし外を歩かれるならどうぞ私をお連れ下さいませね」

「それはなかなか、楽しそうだ。そうしよう」



体を壊し、部屋からあまり出られなくなった彼のために、ディアナは毎朝こうして挨拶に来た。
彼女は、毎朝毎朝それはそれは彼女の性格を表しているかのように律儀に挨拶に来る。ベッドに伏せるばかりでは治るものも治りませんと力強く話す彼女を眩しげに見つめながら、彼はそれを楽しんでいた。今更ながら、娘が出来たようだと彼は思う。彼女のことは生まれたときから知っているし、イスマス王ルドルフがそれはもう自慢げに美人だ、賢そうだ、さすがマリアの子だと褒めちぎっていたのも覚えている。あんなに小さく弱々しかった彼女が、立派になって。密かに泣きそうであったりした。


そんな彼の目下の心配事といえば、我が愛すべき不器用な子のことであった。
不器用な息子は不器用なりに努力し、かのイスマスの姫と婚約にまでこぎ着けたはいいものの、不幸なことに世界の危機というどうしようもない問題と直面してうやむやになった。
その後バファルの貴族を脅したり彼女の弟に説得させることによりどうにかこの城に連れ込むことは出来たものの、その後の展開が全くないようである。いい加減あれもいい年だし、こちとら彼女を義理の娘として迎える準備は全く出来ているのになあと彼は思いつつ、目の前の娘に目をやる。


この娘も両親似で非常に頑固なところがあり、いくら「いつまでも此処にいて良いのだよ」と説得しても「陛下も殿下もお優しいですから私をこの城に置いてくださいますが、いつかは出なくてはなりません」の一点張り、客人であるというスタンスを崩そうとはしないのである。
あの朴念仁の息子に彼女はなかなか手強いであろう。





仕方がない奴だなあと心中思いつつも、
優しい父は、不器用な子の為に一肌脱いでやることにした。



「ところで、ディアナ」

「なんでございましょう」

「ナイトハルトはああ見えて、お前のことをとても気に掛けているのだよ」

「それはよく、存じております」

「それでは、ディアナは毎朝父上のところを訪れるというのに、自分のところには来てもくれない、と嘆いていたことは知っているかな」

「は、い、いえ…?」

「それもこれも自分がふがいないために違いない、自分がイスマスを助けることが出来なかったのだから彼女に嫌われても仕方がない、と密かに落ち込んでいることは?」

「…」

「ああ見えて、意外と繊細だったりするから、たまには顔を見せてやってくれないか」



さあ、今すぐ!思い立った時が行動を起こすときだと彼が説く前に、彼女は失礼しますと一礼し、扉の外へと早足で出ていった。凶と出たか吉と出たかは分からないが、少しは動きがあるだろうと、彼は満足した。



















「父上」
「どうしたナイトハルト」
「…何を吹き込まれたのですか」
「なんのことだかこれがさっぱり分からないなあ」



王様とディアナは友好関係を築いているといいですね!
殿下は仲間はずれにされるといいですね!(ひどい)