サーの称号

女は怒っていた。猛烈に怒りを炸裂させていた。
手にするは一着の水着。水着にしか見えない。どこからどうみても水着である。
しかも少し、いやかなり、凄まじく際どいのである。
はい新しい装備だよなどと渡される身にもなれ。

目の前で淡々とそれを渡してきたタルタロス探索リーダーを射殺さんばかりに見つめれば、彼は動じた様子もなくやはり淡々と、今の装備より防御力高いよ。などと返答する。
このどこまでも乾ききったような態度に一瞬本気で防御力だけを考えて渡してきたのかとも考えたが、この男、淡白そうに見えたところで腐っても健全な高校男児である。あの順平と話が合うのである。間違いない。むっつりだ。

リーダー特権のセクハラはどうかと思うん で す け ど ?と怒りを込められる限り込めて再度青年を見やれば、それならしょうがないとあっさり引き下がった。
引き下がり、後ろを向いて

「じゃあ桐条さんお願いします」

とその新しい装備とやらを手渡した。
…待て待て待て待て?


「ちょっあんたね!何考えてんのよ!?最低!変態!」

「本当に防御力半端ないよ?今の装備の倍ぐらいあるんじゃないか」

「そんな見え透いた嘘を…」


このむっつりすけべが、の台詞を吐き出す前に、かの桐条女史は確かに、と呟いた。…えっ嘘でしょうちょっと待って。
彼女は手にした水着にしか見えないそれをまじまじと見つめ、重々しく呟いた。


「確かに、今の装備よりは優れている…ようだな」

「先輩!気を確かに持ってください!?いくら人目につかないところでの戦いだからってそれはないでしょ!?」

「…これもまた戦いだ。着てやろうじゃないか」


あああやってしまった。この人の闘志に火をつけてしまった。
なんでこういう変なところまで負けず嫌いなのこの人は!

頭を抱えた少女の方をぽんと叩いたのは元凶の青年。
一応メンバーは考えてあるから、と生真面目な顔でうなずき、その場を去った。
なにを考えてるってのよほんとに。これで順平とかメンバーに入れたらどんなに瀕死になったって一生回復かけてやんないわよ、と少女は強く思った。
















「…どうした美鶴?変な顔をして」

「いや、なにか違和感だとか、そういったものは感じないか?気になったりだとか」

「お前が変な顔をしていることが一番気になるが」

「そ、そうか。ならいいんだが」

「おかしなことを言うなあ。まあ、今回も頼りにしてるぞ」

よし、行くぞコロマル!と探索へ向かうべく通路を駆けていくその背中を見送って。
そしてその言葉で吹っ切れたかのようによしきた行くぞー!と駆け出していく眩しい白い足と背中を見守って。





控えの、今回は危機を免れた少女は思った。





ああ、あの反応が出来るのはあの先輩だけであろう。


メンバーを考えてあるというのもあながち嘘ではないかもしれないな、と思いリーダーを振り返れば彼はやはり淡々と、ああやっぱり面白いなああの先輩達は。ねえ、ゆかりん?と首を傾げて見せた。









彼女はそうね、そうかもね、と微笑み。
自分の弓をきりきりと絞り。




人の良い先輩たちに代わり軽く"処刑"を実行することにした。






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チョッキが予想通りの反応であったことを楽しむ主人公と、セクハラ撃退ゆかりん。
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