フラグ職人


ジュースを買いに2階の踊り場まで上がってきた2人は、そこに真剣な表情で何やら書類を見つめるリーダーの姿を見た。普段からどんな時でも真面目な表情の彼女であるが、今回ばかりは気迫が違う。何か鬼気迫るオーラを周辺に放ちつつ手元の書類を穴のあくほど見つめているリーダーの姿は一言でいえばとても怖かった。ゆかりは思わず横に立つ順平と顔を見合わせたが、順平は今すぐにでも立ち去りたいという顔をしていた。役に立たない。できれば遭遇したくなかったわと頭を振りながらも声をかけてしまう自分のお人よしさむしろ怖いもの見たさの感情にため息を吐きつつ、どうしたのリーダーとゆかりは声を発した。


「どしたの、なんか一斉攻撃の時よりとんでもない気迫なんだけど」
「制服って高いね」
「…なに?」
「制服を新調するために値段をチェック中」


顔をあげてリーダーは続けた。なにぶん、朝から晩まで毎日着続けるものだから草臥れてきたしどうせならもう一着新しいのをと思ってチラシを見てるんだけどこれがまた高い。どうなってるの。制服の布って現代技術の粋を集めて作られてるの?あんなぺらぺらなのにねえ、と淡々と話すリーダーは、それに最近きつくなってきたから、と何事でもないように続けた。


「きつい?太ったようには見えないけど…」
「そりゃあれだけ毎晩走りまわってりゃ太る機会もないよなあ」
「じゃあなんで制服きついの?」
「あっ名探偵閃いた!胸か!」
「はい残念。正解は腕」
「う、うで?」
「特に二の腕がきつい。このままだと武器振りまわしたときに引き裂かれる気がする」
「…なにを企んでるのよ、リーダー」
「鈍器担当になろうと企んでるの」


腕に重心を置いてトレーニングを行った結果です。荒垣さんの置いて行った武器を使わないと勿体ないからね。パンフレットから視線を上げ、リーダーはさらりとのたまった。2人には容易に想像がついた。ああバス停だ。バス停振りまわす気だこの子は!!!
見た目はどこまでも不良だがその実動物好きという大変わかりやすい戦友にして先輩が戦線を離脱した後、有効活用しようと言ってその装備をメンバーに配布したのは最近の話である。余分な装備であれば問答無用で売り払い金に替えた徹底っぷりであったが、その時どうしようもなかったのが武器であった。ハンマーだの斧だのはまだしも、さすがにリーダーがどこかから持って帰ってきたその獲物だけは親切な警察官も引き取ってはくれなかったらしい。
これを手に入れるのには苦労した、とリーダーが感慨深げに腕を組んでのたまう姿に、ゆかりはまたこいつは真顔で冗談を言うと笑い飛ばしたものであったが、まさかこんなことになるとは。
ただでさえペルソナの力なのか本人の資質なのかは分からないが愛用の模造品の長刀ですら敵を一撃粉砕なのである。これで鈍器なんて持たせた日には恐怖のあまり眠れる気がしない。あなたには長刀が似合うと思うわリーダー!長刀のリーダーは強くて男前で素敵です!と2人は一致団結し説得工作を開始したが、効果があるとは思えなかった。

このリーダーのことである。無表情のままこの状況を楽しんでいるのに違いないことを2人の同級生はこの半年の付き合いの間に痛いほど学んでいた。










「なにをしてるんだ、お前たちは」

「どうもこうもないです!このままだとリーダーが鈍器担当になっちゃうんです!」

「ああ、良かったな。こいつは真面目にトレーニングしているから、もう一か月くらい真面目にやれば問題ないと思うぞ」

「…」「…」

「何を協力してるんだあんたは!!!」







バス停が好きです(告白)。
最終的にはバス停ぶん回して最終戦に「覚悟しろ望月!」「ごめんなさい」となります。
関係ないですが「今宵のバス停は血に飢えておる」というセリフをどこかで言わせたかった。(断念)
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