ルールを守って安全運転


あのなあアキ。

うん。なんだ。

素直に返事してんじゃねえよ。今の状況把握してんのか?あ?

商店街の空きビルの中にいる。

他には?

認めたくはないが閉じ込められている。

認めろ。そこんところ認めろ。そんでもってあとどうするか考えやがれ。

そうか、そこまで考えてなかったな。

考えやがれ。そこを思いっきり優先して考えやがれ。




壁に背を預け、ずるずると壁を擦りながら座り込みながら彼は言った。決して勉強ができないわけではない、むしろ勉学的には優秀な部類である幼馴染は日常生活を送る上であまりにも抜けていることが多すぎる。真っ直ぐであるといえば聞こえは良いがあまりにも猛進しすぎる相棒に振り回されて幾星霜。一歩後ろの立場から軌道修正を心がけてはいたものの、それではどうやら甘かったらしい。
今度は三歩くらい後ろにいるべきだな、とどうでもいいことを呟きつつさてどうするかと首を鳴らした。
なんだかんだいって、幼馴染の判断は間違っていなかったと思う。あれだけの数を敵に回すには分が悪すぎた。ただし崩れかけた空きビルに力任せに侵入するのはいただけなかった。場所が半分地下だからかナビ役の声も届かなくなり無理やり閉じた扉はびくともしなくなった。お手上げである。

このまま影時間が終わったらしょっぴかれるかもな、不法侵入とかでと苦笑いで相棒を見やれば"これからどうするか"を思い切り優先して考えていたらしい相棒がそれは困るなと笑った。




俺はお前ほど警察慣れしてないからなあ。

いい経験になるんじゃねえか。

それもそうだな。ならそれまで待機だ。




言うや否や幼馴染は床にすとんと腰を降ろした。てっきり強行突破だと全力でドアを破壊するものと思っていた彼は、さてそうなると暇だな、トレーニングでもするかなどと首をかしげている目の前の相棒の発言に耳を疑った。




…大丈夫か、アキ。頭でも打ったか?

いや、頭は打ってないぞ。さっき肩はぶつけたが。

真面目に答えるなよ…。

シンジは相変わらず心配性だな。大丈夫だ。美鶴がなんとかしてくれるだろう。

なんとかねえ。

ほら、バイクで突っ込んでくるとかな。

想像出来過ぎて笑えねえ。




全てを自分一人でどうにかしようとする傾向があるこの幼馴染が、そしてどちらかと言わずとも考える前にまず行動のこの幼馴染が!この部活動という名の戦争に参加してから明らかに成長していることをしみじみと感じ、彼は誰もいなければ思わず泣きそうになった。とりあえず泣くことは寮の自室に帰ってからにまわすことにしたところで彼はふと気がついた。俺はこいつのなんだ。親か。
目の前では件の幼馴染が腹筋と背筋のどちらを鍛えるかに脳味噌を使用している真っ最中であった。ええいこのトレーニング馬鹿。こんなボロビルで暴れるんじゃねえよ。お前のトレーニングとやらで圧死したらただじゃおかねえぞ。
















二人とも無事か?

ああ、なんとかな。ただ逃げ込んだ先で出るに出られない状態なだけだ。

何か不都合が?

ドアが壊れた。

了解。なにかこじ開けるものが必要だな。場所は特定した。周辺に敵影もない。今助けに行くから待っていろ!



どうした。他に何か必要なことはあるか?

なんつうか、まあ、安全運転で来いよ。





バールのようなものをその背にくくり、通行人がいないのをいいことに愛車でかっ飛んでくる戦友が今見た光景のように再生され彼ははっきりとため息をついた。ああちくしょう。頼りになるとか思っちまったじゃねえか。





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三人チームになって数カ月くらい妄想。
バイクでかっ飛んでくるときはこれ以上ない笑顔であることでしょう。
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