代打俺

階段を下りてきた足音に応接間のソファーから振り返えると、自室を片付け終えたらしい友人の姿があった。(といっても彼の私物らしい私物は決して大きいとはいえない鞄が一つであった。彼女からしてみれば代えの服だとか化粧品だとかを考えればそのサイズの鞄であれば10でも足りないであろう。彼女がそれを全て捨てたとして、新しい生活場所で困るということはありえないのだが。まあ、彼に化粧品はいらないにしても私物が少なすぎた)



かける言葉も見つからない彼女に、友人は眉間に皺を寄せて、ここを出る前に最後に頼みがある、と大変言いにくそうに口を開いた。彼女は少なからず驚いた。
不器用といわざるを得ない、言葉少ない友人である。
三人きりで戦ってきたというのに、どこか意地を張って素直でない友人であった(人の事を言えたものではないことは自覚しているものの)。
そんな男が頼みごとを?私に?




…これは張り切らねばなるまい。


いいとも。私に出来ることならなんでもすると返せば、青年はあの馬鹿をよろしく頼むと真顔で言った。






あの馬鹿ときたら自分の限界いつまでたっても覚えやがらねえ。その一線越えたらぶっ倒れんぞってところを何食わぬ顔で乗り越えやがる。戦力外になって迷惑かかんのはてめぇだろ美鶴。だから無茶しそうになったら(友人は鳩尾をぐっと押さえ)ここに一撃くれてやってくれ。容赦はいらねえ。




彼女は真剣な表情をもって肯きを返す。




あとほっとくと毎日肉ばっかり食いやがるから、一週間に3回を越えるようなら言い聞かせてみてくれ。駄目なら(友人は心臓をぐっと押さえ)ここにブフの一発でもくれてやってくれ。容赦はいらねえ。





彼女はやはり真剣な顔をして肯きをもって返した。


ああ、いいとも。これまでお前が請け負ってくれていた部分を全て喜んで引き継ごうじゃないか。優しく言い聞かせろと言うのならちょっと考えさせてもらうが、一撃くれてやるというのはなんでもいいんだろう?ヒール攻撃は…ああ、ありなのか。快く引き受けさせてもらおう。今までどうもありがとう。




礼の言葉と共に右手を差し出せば、友人は躊躇いがちにその手をとった。











ごっ、ずしゃあ、がしゃあん。
何か硬いものがぶつかる音、吹き飛ぶ音、壊れる音が3階の敬愛すべき女帝の部屋から響き渡り、応接間に集まった後輩達が一同に首をすくめてやれやれと言葉をこぼした。
止めにはいかない。誰も無駄な怪我はしたくはない。


ああまたやってる。

またやってるねえ。

処刑タイムだ。

お仕置きタイムだね。

だからムチャしちゃだめですよって言ったのになあ俺。

でも、今日のムチャは順平さんと僕が弱点食らってこけちゃって、リーダーはリーダーで攻撃スカしてこけちゃって、怪我人の真田さんがしょうがなく敵に突っ込んだんじゃないですか。

…俺らか!?俺らのせいか!?明らかに処刑タイムは俺らが食らうべきじゃないか!?

ううん、こう考えてみるのはどうだ。真田先輩は処刑を食らうのが大好き。

ああ、それなら、まあ。

なに自分に都合のいいように考えてるのよ!…なにアイギス手ぇあげてんの?発言権求めてるの!?わたしに?!

はい、アイちゃんどうぞ。

では、わたしから一言。美鶴さんが心配のあまり照れ隠しに処刑タイムっていうのはどうでしょう。





……

やべえちょっとそれ萌える。

萌えを固めて人型にしたような人だなあ桐条さんは。

それってすっごく可愛いよね…!

…順平!リーダー!風花についでにアイギス!あんたたち一緒に処刑食らってきなさい!







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