普通


突然、本当に突然目の前の同級生は不思議そうな顔で、世の中ってわかんないよなあと言った。はぁ?と聞き返そうとしたその返事はちょうど一口かじったサンドイッチのせいでおかしな言葉にはなったものの、とりあえず相手に疑問をぶつけることができたようであった。屋上の角に腰掛ける彼女の目の前の地べたに座る同級生は、焼きそばパンにぱくつく手をとめ、だってなあと独り言のようにぶつぶつ続けた。

よくわかんねえなあ不良に絡まれるそこへ颯爽と現れる幼馴染まあ一部手助けはあったとしてもあれだそこで惚れないわけはないだろうああせめてお名前だけでもいいやそれがし名乗るほどのものではないとかなるだろうなんでだ、そこまでフラグばんばん立てといてなんでキュンとならんのそのタカシくんは。


腕を組み本格的に悩みだした同級生になんの話してんのあんた、とようやく彼女が中断させれば彼はいや話を聞けば聞くほど納得いかなくねそれ、と首をかしげた。



そういえばこの間お前不良に喧嘩売ったんだって?という言い出しで始まったこの昼休みの会話はなぜかどんどんと深い内容にまで掘り下げられており、気がつけば助けた相手は小学校からの幼馴染(しかも男)であること、そのときの彼はとてつもなくみっともなかったこと、そんな彼は雪子を秀才の美人であることを盲目的に信じて惚れ込んでいたこと(しかもなぜかそんなダメ人間を彼女自身がほんの少しでも気になっていたことがあったことも含めて)などなぜか洗いざらい白状させられてしまった。白状したというよりは、知らず知らずのうちに愚痴っていたらいつのまにか全部ばれてしまったとでもいうか。


なんとなく気恥ずかしくなり、どうにかこの事態を対処すべく彼女は考えたが、こんなときうまくごまかしてくれるような頼りになるリーダーも雪子も何の因果かここには居ず、話を脱線させることにかけては天下一品の後輩トリオも今日は姿が見えなかった。
かくなる上はあの着ぐるみしかいない。どこからか湧いて出ないものかとあたりを見回すも、さすがの彼もジュネスの特売セールに朝から借り出されているとなれば召喚されることもない。




ただの愚痴だっての、深く考えないでよと目の前の悩める青年に声をかければ、いやさあ里中は納得いくわけ?おれは納得いかない、ここははっきりさせとかないとと自分の言葉に肯いた。
腐っても自称であっても三枚目でも特別捜査隊参謀。一度気になったことは意外と追及するほうなのである。彼女はわかったわかった、と続きを促した。



「だって里中、考えてもみろって。普通幼馴染の女の子に不良に絡まれてるところ助けられたなんつったら普通ぐっとくるだろう。俺は少なくともくる。見る目ねえなあタカシくん」

「タケシくんだっつうの。きっとあれじゃん?女に助けられるなんてみっともないとか思ったとかさ」

「いやでも助けた相手がかわいい女の子でも逆切れするかあ?しかも里中普通にかわいいのに」

「世の中みんな花村みたいな考え方じゃないんじゃないの。つか剛史モテるらしいよ今の高校でさ」

「げえええ腹立つ!真っ面目に腹立つ!世の中不公平じゃねえ!?」



競争社会とはかくも残酷なものなのか、世の中が納得いかないことばっかりだよ俺はと首を振り、再び昼食を再開した同級生の顔は本気で腹を立てているようであった。まああんな馬鹿のためにエネルギー使うのはもったいないよ花村と彼女は思ったが、言うのはやめておくことにする。この状態なら何を言ってもだめだろうし、例の幼馴染の話をこれ以上続けるのも馬鹿らしい。



そしてサンドイッチの残りを口に放りパックジュースで流し込みながら、今度剛史に会ったら競争社会の敗者のために飛び膝蹴りでも食らわしてやろうかと考えた。






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意識せずかわいいと言い
意識せず復讐を考えるふたり妄想

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