幸せとは一匹の
あったかな子犬


「…なんでクマのやつ、あんな挙動不審なんすか?」


先輩二人に呼び出しを受け、久しぶりに元・自称特別捜査本部ことフードコートにやってきた彼は困惑した声を上げた。
その視線の先には美少年と呼んで差し支えない生き物がひとつ。
仕事中にもかかわらずあっちへうろうろこっちへうろうろ、座ったり立ったりくるくる回ったり、と全く落ち着きがない。クマがおかしいのはいつものことなのではあるが。


「クマくんが挙動不審なんていつものことじゃんか」
「踊ったりしないだけいつもよりマシじゃないかな」


一生懸命ハンバーガーにかぶりついていた一人と、カキ氷をつついていた一人が気のない返事を返しつつ彼が見ているほうに視線をやり、あーと声をそろえた。

今日って何日だっけ、雪子。28日だよ。やっぱりねー。クマさんも懲りないよね。あれはもう好きでやってんだよ。


女二人で顔を見合わせふふふと笑い合う状況に、彼が頭上に疑問符を山ほど浮かべていると、千枝があれあれ、と指をさす。その方向には気ぐるみを脱いだ少年。その手元にはプラスチックのポップな緑色。…携帯電話?


「そうそう、携帯。毎月これくらいにかかってくるんだよ」

「はぁ、誰からっすか?」




要領を得ない雪子の物言いに再度質問をぶつけたとたん、少年の小さな携帯電話がちゃらりんちゃらりんと軽快な電子音を発した。律儀にもジュネスのテーマソングの着メロにクマは待ってましたとばかりにとびついて、しかしなんでもないように口を開いた。おっすヨースケ、どうしたクマー。どうしたじゃねえよ毎回毎回こりなすぎだよお前は!携帯電話越しでも聞こえる元気の良い声。


案の定かかってきたねーと千枝は笑い、あのね、あれって毎月恒例なんだよ、と完二に言った。


クマきちの携帯って花村が契約してんだって。クマってばジュネスで働いてきちんとお給料もらってるからもう自分で払えるんだけど、身分証明ができないからとりあえず花村の口座から引き落としなわけ。だから毎月引き落としの前に振り込むってきまりらしいんだけどさ。


「クマはクマで電話を楽しみにしちゃってるからさ、毎月振り込まないで、花村の怒りの電話がかかってくるってこの繰り返し。変な奴らっしょ?」

「花村君がこの町出てから、あれで近況報告なんだよね、きっと」

「なんていうかああいうコミュニケーションなんだよね。ほっとけほっとけ」

「あとで代わってくれるから、それまで放っておいてあげよう?」

「じゃ、何食べる完二くん!心優しい先輩たちがおごってやるぞよ!」


寛大な先輩二人にごちそうさまっす、と頭を下げながら彼は思う。
どれだけ面倒見がいいのか、この先輩たちは。
電話の主はきっとわざと払い込まないのを知っているのであろう。
それを見守るこの二人も、それをわざわざ少年に言ったりはしないのであろう。
2000円くらいでけちけちするない!ヨースケはいつまでたっても器が小さい人間クマ、と楽しそうに声を繋げる彼を、皆可愛くて馬鹿な弟分のように見ているのであろう。…年齢不詳ではあるけれど。
変なのはどっちだって話だよなあ、変つうかどこまでも面倒見がいいっつうかと疑問を抱えつつ、彼はメニューを選ぶべく席を立った。









「お、カンジも話したいクマかー?しょうがないクマね。クマは大人だからかわってあげるクマ」

「あ?別にいいっつの」

「ちょっと!その言い方は傷ついちゃうよ俺!」











=
主人公→実家から都会の大学へ
花村→一人暮らしで専門なり、大学なり
りせ→仕事で都会へ
直斗→事件を求めて全国各地へ

と言うわけでその他4人が稲羽に残っている妄想です。

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