てんやわんやですよ


気がついたら体を床に打ち付けていた。




いってえ!何だ、一体なんだと背中を、頭をさすりながら起き上がろうとした瞬間、腹の上にどかんと重力がかかる。ぎゃあ痛ぇ!ともう一度叫んでそれに目をやれば今の今まで足元も危なっかしく「うわあ飲みすぎた」(あれだけ飲んで足りなかったら困る)だの「でもお腹すいた」(まだ足りないのかよあれだけ食って!)だの口走っていた彼女がそこにいた。

…え?なになんでマウントポジション?すみません里中さん?暴力反対?といいながら彼女に向かっておっかなびっくり手を伸ばせばそのまま両手首を掴まれフローリングの床に縫いとめられる。ぎゃ、ぎゃー!ま、待て待て待て待て、今の状況は何だ。右手、狭いワンルームのキッチン、とりあえず届くものはなし。左手、風呂場、やはりなにも掴めるものはなし。こんなことなら思い切って散らかしておくんだった。自分の無駄な片付け好きがたたり、対抗するための装備は何一つこの手に入らない。体の下は床。体の上には見知った顔。なんつうかこの体勢ってもしかしてものすごくやばくないですか?ってだから待て待て待て!


「さ、里中ー?」

「…」

「里中さーんー…?」


体の上に馬乗りになるその生き物は、どろりとした視線をこちらに向けるものの返答はなかった。
状況は良く分からないが確実なことがひとつ。ああ、彼女は確実に酔っている!(彼女が酒に飲まれた姿と言うものを自分は初めてお目にかかった)

ひとつの事件(それがこの田舎町にしてはかなり大事になっていたそれ)が無事解決の運びとなり、彼らの上司が今日は奢ってやると自分たち二人を引きずりまわしたのは覚えている。その上司が酒に飲まれて崩れ落ち、あきれ果てつつ娘さんが迎えに来たことも覚えている。その時点で彼女はぐだぐだの骨が抜け落ちたような状態になっていて、とりあえず休んでいかないとこいつはキャッチ&リバースかますなと彼は判断した。そのためとりあえず現場という名の居酒屋から近いの自分の家までタクシーで帰ってきた。ここまではいい。分からないのは鍵を開けて扉を開いてほらとりあえずあがって水でも飲んで、と口に出しつつ振り返ったとたん現状況に陥っているということである。しかも気がつけば体の上の生き物は乗り上げるだけでは飽き足らず、その鍛え上げた足で確りと自分の体を押さえつけ、じっと自分を見つめてくる。い、いかんいかん!現場は鑑識が入るまで現状維持がルールだぞ里中!勝手に触って何度堂島さんに叱られたことか!このまま締め技食らってあちらの世界にダイブすることになるのであろうかと戦々恐々としていると、その生き物はようやく人の言葉を口にした。


「あたしだってねえ…」

「う、う!?なに?なんだって?!」

「あたしだって色々考えてるんだぞー」

「え?あ、あ?!そうだな、そうだとも里中、考えてるよな、うんうん!」

「あたし今酔っ払ってる」

「うんそれは凄く知ってる」

「だから観念しなさい」


い、意味が!意味がさっぱりなんですけど里中巡査!とにかく落ち着いてください里中巡査!
一生懸命当然主張をしてはみたが、彼女は有無を言わさず自分を襟元を掴んで引き寄せる。驚くほど力が入っている。里中頼む、命だけは。少なくともあと3日に迫った給料日までは生かしてくれ。電気代ガス代家賃を払ってすっきりしないと死ぬに死ねないよ俺は!ってこんなときまで生活費の心配してどうする俺!こんなときまで発揮される自分のマメさに絶望する彼が30秒ほど胸倉をつかまれたままの沈黙を味わったあと、目の前の泥酔する友人が口を開いた。それはもう不思議そうな顔をして。内陸の国で育った子供が始めて海を見たような。…ああ意味がわからんこれは俺もかなり酔っ払ってるな。



「花村って意味不明」



お前に!今のお前にだけは!言われたくないんですけど俺は!!!




















「あははははそりゃ花村お前家に上げたって時点でそれはオッケーってことになるだろ油断したお前が悪い」

「ああそうね人って突然獣になるのだものね、っておい。それって男の思考じゃね?」

「男の思考だな。んで結局どうなったんだよそれ」

「とりあえず冷蔵庫に冷凍食品のサイコロステーキがあるからそれあっためて食えって言ったら素直にどいた」

「食欲か!食欲が勝ったか里中!」

「俺ってサイコロステーキ以下?」

「そこは悲しんでおくべきだと俺も思う」













妄想1:なんだかんだあって稲羽で警察やってるふたり。
妄想2:直属上司に堂島氏。
妄想3:酒の勢いに任せて自覚した里中さんと、勢いに飲まれて状況把握ができない花村くん。
妄想4:酒が抜けたら自分のやらかしたことに気がついて家で悶絶(床をごろごろ)するであろう里中さん。
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