裸足で駆けてく陽気な神様


鎌倉は、梶原邸。
そういえば、と誰かが言った。

「望美さんは、こちらの世界に残るらしいですよ」
「おーついに本気になったかお姫さまは」
「な、なんだって?!どうしてまた、そんなことを言い出したんだ!?」
「ほら、こっちにゃあれがいるじゃん」
「あの男もなかなかやりますね」
「しかし元いた場所にご両親も友もいるのだろう?そんな簡単に決めていいものなのか」
「まあ先輩は…そういう人ですから」
「け、けれど神子殿のご家族は心配なされるのではないですか?一人娘だと聞きましたし…」
「じゃあさあ神子姫様連れ帰っちゃえばいいじゃんあいつを」
「確かに」
「待って下さい。彼も一応戦奉行ですから、こちらにいて貰わなくては困りますよ」
「それにあいつにも家族がいるんだぞ」
「朔ちゃんのことは俺に任せて、気兼ねなく行って欲しいもんだけどなあ」
「そんなこと言ってるからいつまで経ってもあなたは朔殿に相手にされないんですよ」
「うるせえよー!」
「どーしたどーしたみんなで顔つき合わせて。秘密会議?」
「いや、望美がこちらに残るらしいと聞いてだな」
「ああ、そうだってな。もう向こうの世界に全く未練はない!って言ってたし」
「い、勇ましい…!」
「あーほら泣くなよ敦盛ー」
「しっかし、そこまで思わせるとはねえ。どこがいいのかねえ、あれの。俺の方がよっぽど」
「君よりは断然良いと思いますよ」
「笑って言うな!笑って!」
「…しかし」
「先生、どうかしましたか?」
「先日、神子にこちらに残りたいと相談されたのだが。どうも、すれ違っているようだ」
「え、な、なにがですか?」
「もし神子が帰らないと言ったらどうするか相手に聞いてくれと頼まれて、尋ねてみたのだが」

尋ねられた男は答えたのだという。
困ったような笑顔で。






どうしてそんなことを?望美ちゃんは帰らなくちゃだめでしょう?せっかくここよりずっと安全なところにお家があるのにこっちに残る理由があるのか俺にはわかりませんよ。残って欲しい?とんでもない!
戦なんかしなくていい、平和なところで彼女は幸せにならなくちゃあ駄目ですよ
本当はこんなことに巻き込まないで、早く帰してあげたいんですけどね






…すれ違っている。
確かにとんでもないすれ違いかたをしている。
しかも、かなり救いようのない状況の。
マジかよ、なんだそれ、と顔を見合わせはするものの何も言葉が浮かばず、貝のように口をつぐんでしまった男達の後ろで、からん、と何かが転がる音がした。


ふり返ればそこには梶原家の娘と共に庭掃除をしていた少女が一人。
おそらく、最も今の話を聞いてはいけなかった娘。
わなわなと竹箒を握りしめる手も震え、黙ってそこに立っていた。
足下には思わず落としてしまったらしいちりとりが。

顔を上げる。
その表情に映るのは




悲しみ




そしてそれを何重にも上回る





怒り






「の、望美?」
「望美?」
「そんなに私に帰って欲しいなら…」


少女は怒っていた。全身全霊で怒りを発していた。
否、それはもはや、殺意。


その場にいたものは友の命の危険を察し一斉にがばりと振り返り、鼻歌など歌いながら白龍と共に洗濯物を干している男に向かって叫んだ。




「逃げろぉ!」
「逃げろ景時ーーー!!」
「なになに、どうしたのそんなせっぱ詰まっちゃった声だし」
「帰ってやるーーーーーーーーっ!!!」


のんびりと振り返った彼の頭蓋めがけて、唸る竹箒が振り下ろされた。














血まみれで倒れた男を、血まみれにした張本人が泣いて心配したという結果があり。

その場にいた男達は、『恋する乙女は訳の分からない恐ろしさを秘めている』という共通見解をもって、会議を終了とすることにした。

男性の軽い流血(主に頭部から)MOEでしたー!
流血一瞬ですみません(ほんとだよ)。
神子様が本気出したら頭割れるどころか即死だろうなと思いつつ遥か3です。

個人的にはあつもりくんが可愛らしくて良いと思います(聞いてない)

八神さん企画参加ありがとうございました!