自分探しのたびに出て


心の中の風の森、その前に置かれた木のベンチに座っているのは軍服を着た若い男。
それを見つけたから偶然か、黒いコートの男がだらだらとベンチに近づいていく。


あ、親父。こんなところにいんの珍しいね。そこアルバートのおっさんの指定席なのに。


その声に軍服の男は顔を上げ、ここはお前の母さんとの思い出の場所なのだからむしろ俺の指定席だと惚気9割の強気の発言を返した。子はあーそうですかとその場にしゃがみこみ堂々と座る父を見上げる。全てが片付いたのやら、振り出しに戻ったのやら分からない今の状態になって父はしょっちゅう自分の中で見かけた。自分の中で死んだ人間を見かけるというのもおかしな話だがさすがにもう慣れた。突然イギリスの片田舎に住む超能力”元”少女からなぞのテレパシーを送られようと突然へんてこな怪物に変身できようと、心の中に木が生えていてしかもそれに自分が突き刺さってようと何百年と生きている変な生き物が知り合いにいようと、自分が普通に暮らしていられることには変わらないと悟ったのである。こんなんでも生きているのか悪いか。そういうこともある、という魔法の言葉を教えてくれたのはエクソシストの彼女だったか。

母さんもさっきまでいたんだがな、という父の言葉にあーそうなの?それにしても、なんでみんな住み込んじゃってるの?居候しちゃってるの?いくらか俺っていう大家さんに家賃払ってもいいんじゃないのとは思うけどと子は思い、家賃貰うかな、と結論を出したところでようやく気がついた。え、なに?今親父なんていった?


え、お袋いんの?

だから、さっきまでここにもいたぞ?

うっそ、俺会ったことないよ?

まあ、それはそうかもしれないな。恥ずかしいんだそうだぞ。今のお前の頃が、母さんの人生で一番アレらしいから。

アレってなにアレって。


子が不思議そうに声を上げると、父は一言、きっぱりと答えた。


はっちゃけてた。

あー。確かにそうかも。


子はその意見を全面的に支持した。俺がガキのころのお袋はそりゃあ優しいわ落ち着いてるわの人だったっけ。…なんかいろいろ忘れてる気もするけどとりあえず綺麗な思い出だけにしとくかと自分の中で納得をつけることにする。


お袋も恥ずかしいんだなあ今となると。自分のダンナにあのはっちゃけちゃってる格好は見てほしくないってこと?ね、そゆことでしょ?

なにを今更。始めて会ったとき、凄まじい服を着ていたのに。

あー会ったときってことはラスボス戦の時だから…あ、マタハリの?あれヤバイよね。あの服くれた奴がちょっとそういう危ない趣味だったからしょうがないよ。恥ずかしいっていいながらノリノリで着てたけど。

まあ、格好のこともあるらしいんだが、母さん曰く。

うん。

母さん的にも甘酸っぱい思い出は封印したかったそうだ。

う、うわ。

彼女は見た目によらずロマンチストだからな、今のお前に会うと若いころお前に熱を上げていたという嬉し恥ずかしい思い出を、ここにいるとまざまざと思い出すことになるだろう?羞恥心で3回は余裕で死ねるらしい。


母の一方的な言葉を伝える父に、子は不満の声を上げた。母にとっては封印したい昔の話かもしれないが、自分にとっては幼い頃死に別れた母であり、ついこの間まで肩を並べていた戦友でもあるのだし。言いたいことだっていくつもある。
そうそう、いつの間にロシアの人になってるの?ドイツじゃなかったの?俺って結局何人なの??とか。しかもあんなおっかないくらい強かったのにあっさり徳壊のおっさんの下っ端に倒されたってことは油断と言うか迫る年の波?とか。っていうか結婚して性格変わったの?とか。それにしてもお袋といいアリスといい俺の心に住む会いたい奴に限って会いにきてくれないってどういうことなの。
ぶつぶつとしゃがみこんだままつぶやくその背中に一抹の寂しさを汲んだのか、父はその背になだめるようにそっと、その手を添えた。

自分と同じくらいに成長したその背中に。














だがなあ、ウル。母さんの性格だが根本は変わっていないと思うぞ。

嘘だあ。

暴れてたぞ母さん。

え。

正月に、酒が入ったりすると。

え。え?

俺と喧嘩して本気で腹を立てると酒樽とか大破壊してたぞ。

…それ、ほんとにお袋?俺のお袋像一撃で大崩壊なんだけど。

まあお前の彼女も聖書で人の頭をぶん殴るじゃないか。

アリスちゃんはいいんだよ。えくそしすとってそういう仕事なんでしょ?

間違った知識叩き込まれてないか、それ。







手を当てる、というかんじで触れる(背中に)MOEでした!!
結局親子似たもので嫁さんの尻にしかれるという…(酷いオチ)
いつものように何か解釈が違うような気がしますが、楽しかったです!(書きなぐってる側としては!)(笑顔で)(激しく一方的)

リクエストありがとうございました!