鰯の頭も信心から



それにしてもさあ、旦那。

子虎の大暴走を中暴走程度に抑えるべく派遣されてきた忍は竜のお守りを買って出てはいるものの、現在心を支配するのは植えたばかりの苗の様子である中の右目に声をかけた。
屋敷の外は激しい雨。時折光るのは天の雷か竜の雷か。前もまともに見えぬほどの大雨の中でも轟々と凄まじい勢いで燃える若き虎の槍。風雨に負けず雄叫びをあげる赤い色と蒼い色。



竜の旦那は平気なの?

なにが。

ほらこの風に雨じゃないの。風邪でもひかれたらそれこそ一大事じゃないの?

…まあたまには風邪でも引いて反省して下さればいいんじゃねえか。それこそてめえのほうは良いのかよ。

あ、平気平気。うちの旦那はそう簡単にゃあ病気しないから。ほら、馬鹿は風邪引かないってな。



このような状態には呆れ返りつつも全くとめようとしない忍が、ぶっ倒れて反省してくれればいいのになあ…一回くらいとため息をつけば、既に諦めの境地の右目はぶっ倒れたところで反省するとは限らねえからな、と慰めにならない言葉を吐く。
この凄まじい雨の中でなぜ戦うのか。何がこの二人をそこまで駆り立てるのか。
その二人を見守る位置に否が応でもいる彼らは最早そのことについて真面目に考えようとはしない。
世の中には解明できないこともあるということを知っているから。



しかしたまに思うんだよね。こう突然ぷつんといくっていうのはさ、アレがいるんじゃないかなってさあ。

あれ?

癇の虫。

…それじゃねえか。

あ、やっぱり?それならいっちょ退治しないと駄目だねえ。旦那、お祈りとかして追い出せたりしない?

そんな力があったらとっくにやってる。…そういや別に灸と針が効くとか聞いたことがあるな。

さっすが右目の旦那、物知りだよね。じゃあ帰ったら早速うちの旦那を忍特製灸地獄の目にあわせなくっちゃあ。

あと、なんか全身塩漬けにするといいらしい。

なんだ、それならもっと簡単じゃない。この間みたいに崖っぷちで喧嘩してるときに横からどついちゃえばいいんだよ。竜の旦那は泳げそうだし平気でしょ?

それはいいな。手間がかからん。

でしょー?



竜の右目は疲れきった笑みをうっすらと浮かべ、戦忍はあははははと乾いた笑いをあげた。
庭が見えるその部屋を雨にぬれるのも構わず開け放ち、そこに並ぶ男達は体格見た目性格はまるっきり違うものの、その後姿は同じ空気をかもし出していた。













そんな二人の後姿を見て、思わず呟いたのは神出鬼没の風来坊。



大変だねえあんたら。若いのに。



自分の保護者の叔父夫婦が自分をそんな背中をさせてみているということには気が付かず。
雨音に消されその呟きが二人の若き保護者達に聞こえなかったのは(もしくは故意に聞き流したのは)彼にとって幸いであった。





20代男性のやるせなさ一杯の背中MOEでした!
この二人は似たもの同士だと思います。ええもう。苦労人という(酷い)
まあいざとなったら片倉さんは「政宗様に刀向けた奴前へでろ!」ですし佐助さんは「馬鹿かあんたは!」と大変子供思いなかたがたでありますが…(笑)

リクエストありがとうございました!