闘魂注入一点突破


髪の毛を切るのは得意かと尋ねられた。
何事かと聞き返せば彼女は二つに高く結い上げた頭を振り、いい加減鬱陶しいのよねとばっさりと切り捨てる返答が帰ってきた。
確かにねえ、と改めて見やる。
もう首鍛えてるんじゃないの私ってくらい髪の量あるし、これだけ高いところで結んで首にかかって気になるし。もういい加減暑いし。オークニスのときは役になったけど、この辺りって暑いんだもの。
なんだか痛んできてるみたいだし、いっそねえ。自分でやるのって難しいでしょ?
ほら、見て見て?と自分に背を向けた彼女の右の毛先に触れてみれば、それは確かに乾燥していた。
砂漠や山頂の太陽の照りつけを越えてきたのだから、しょうがないとはいえその先は根元の赤茶色から比べて色が明るくなっている。


「あーほんとだ。だいぶ痛んでるなあこれ」

「でしょう?もう広がっちゃうし面倒だからトドメをさしちゃいたいの。だから悪いんだけど得意ならばっさりやっちゃってくれない?」

「そりゃやりすぎじゃないのゼシカちゃん!髪は女の命っていうじゃないか」

「髪が長いからって戦闘中命救っちゃくれないわよ!」


そりゃそうですけどね、と返しながら彼は思う。
そんな潔くっていいのかなあ、これだけ伸ばすのは大変だったろうに。
自分の髪もここまで伸ばすには時間がかかったのでその苦労は分かる。…いやなんで伸ばしていたんだっけ俺。…………。ああそうか、元々短髪がお決まりって話だったから、じゃあ俺は伸ばしてやるって思ったんだったか。馬鹿だなあ俺。もういいのに。もう反抗する必要など全くないのに。


…これはもしかしなくても俺のほうこそ切るべきじゃないか?



つらつらと考えている間、彼女の髪に無意識で触れ続けていたらしい。
背後で急に無言になった男を不思議に思った彼女が振り返ろうとしても、その指は離れない。
きゃーちょっと!痛いんだけど!しかも目がいっちゃってるんだけど!ちょっとどこへ行っちゃったのククール!もしやまた暗黒のスイッチ入っちゃった!?帰ってきて!むしろ帰って来い!と彼女がひゃあひゃあと奇怪な悲鳴を上げたところでようやく彼は我に返った。
返った拍子に離れるさらりとした感触。
慌てて何もしていないぞと両手を挙げるが、しまった、と思ったときには既に遅すぎた。








悲鳴を聞きつけて連金釜を抱えたまま走ってきた我らがリーダーが、ククールとゼシカを交互に見ながらにやっと笑った。

「あっれククール、今日も元気に助平なことしてるわけ?」

懲りないねえというリーダーの言葉に今回ばかりは彼は言い返せなかった。
ああそうですよ、別にそんなことしようと思ったわけじゃないですけど結果的には悲鳴上げさせたんで俺が悪いんですよ。心の中だけで返答する。
被害者の彼女がああ別に下心があったわけじゃないでしょう今回はとフォローするにいたり、彼はますます沈黙を守るしかなかった。ああ、確かに下心はなかったけどあなたにフォローされるんですか俺。


「いやでも、ククールは前科あるからねえ。いろいろ」

「まあ、それに関してはフォローはしないわねえ」

「過度なスキンシップするなかれって決まりごと増やそうか。破ったら罰金100Gで」

「俺ばっかりそういう決まりごと増やすなよ!」

「いやみんな一応あるんだよ。ねえゼシカ」

「うん。ヤンガスは"飲みすぎても自力で帰ってくること"」

「…ゼシカは?」

「油断するな」

「…はあ?」

「ゼシカは子供とかご老体とかにころっと騙されちゃうからさあ。気をつけてねっていう」


今はそんなことないわようと膨れて、リーダーと連金釜と共に彼女を心配して駆けてきた白馬にそうですよねえ姫様と彼女が話しかけている隙に。
青年は言った。正直言うとさあ。


「ククールに油断するなよという意味だったんだよね」

「なんでだよ」

「だってもともとこの旅加わったのって八割くらいゼシカ…の胸目当てでしょ?」

「せめて五割にしようぜ」

「今はどうだか知らないけど」

「どういうことだよ」


どういうことも、なにもねえ。
それ以上青年の口は開くことなく、にやける表情でそこに立っているのみ。
馬姫に散々話しかけ、彼女から大いなる同意を得たことであっさり機嫌が直った彼女はああそうだ、と拳を打つ。


「ああ、あたしの前にあんたの髪切ってあげようか?」


なんだか鬱陶しそうな顔してたし。自分でやるのって難しいものね。
その言葉にはとりあえず笑って、俺のはゼシカと違ってさわり心地良いですから、っていうかゼシカちゃんにできるわけ?と軽口を叩いておくことにした。何か言えば目の前のやかましいリーダーと馬姫様がもう攻撃をかけてくることは間違いなかったからである。
当の彼女はその言葉に怒る気配すら見せず、赤茶けた頭を振っていっそ丸坊主にしちゃいなさいよ、と笑った。














「しっかし知らなかったよ。ククールってなかなかマニアックだよねー髪フェチだなんて」

「うるせえよ女もののビスチェを嬉々としてつくるコスプレフェチが!」



髪の先のあたりだけ指でかすめるようにすくって零すMOEでしたー!
かすめるどころか触りまくっちゃってますが!コレもセクハラですか!(誰に聞いているのか)
ククールはたまにスイッチ入っちゃってセクハラどころの騒ぎじゃなくなりそうだなあ妄想です。それを生暖かく見守る仲間たち(いやな仲間)でお願いします。

リクエストありがとうございましたー!