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いつもならどうせならもっと強い奴を倒しに行こうと笑顔で言う彼女が、その日に限って珍しくハーピー程度の魔物退治の依頼を受けた。 並の冒険者であれば十分強敵であろうが、対するは鍛えに鍛え抜いたハンマーで絶好調の彼女。 その凶器の一振りで魔人をも一撃で打ち倒す彼女にとって、ハーピーなどは朝飯前どころの騒ぎではない。むしろ朝ご飯として食べちゃうかもね!とは仲間の一人、リルピーの言葉。 その通りだと彼は思う。 しかも今回楽な仕事だからといつもの仲間たちと別れ、なんと二人きりなのであった。 怖い。 はっきり言って凄く怖い。 今まで二人きりで依頼に向かうなど随分ぶりであったから。 そんな状態に陥るのは出会ったばかり、彼女がまだ駆け出しの冒険者であった頃ぐらいではないだろうかと彼は考え、同時に戦慄する。あの頃はまだ自分ひとりでも止められた。そのすさまじい破壊力を持つ彼女を押しとどめることができた。しかし今は。先日受けた依頼で受けた怪我もあり、本調子ではない自分。絶好調の彼女。それでもどんなに簡単な依頼でも彼女一人で行かせない自分は意地でしかないのか、それとも。 …誰か助けてくれ。 自分も知らない間に結構な信頼を仲間たちに置いていたことに気がつき、彼は再び戦慄した。 彼の恐怖もなんのその、彼女は意気揚々と出発し一撃の下にハーピーを叩き潰しそのまま野宿と流れるように時間を進めた。大体なぜ一撃で倒せる魔物退治のために野宿までしなくてはいけないのか。なぜ昼過ぎになって出発するのか。もうすでに夕日は落ちてしまった。何を考えているのだこいつは! もうこれは寝るしかない。 彼がきっぱりと心に決め、彼女に翻弄され続ける自分を休めようと思ったその時。 すぐ横に彼女の笑顔があった。 その凄みのある笑みときたら。その手には白い布。…包帯? 彼女は少しずつじりじりと彼を追い詰め、崖を背にした彼を見下ろした。 何がしたいんだお前はと尋ねれば、良くぞ聞いてくれましたっていうかもっと早く聞いてよと勝手なことを言いながら彼女は力強くのたまった。 「いやね、セラこないだ怪我してたじゃない!でも手当てしようと思ったら凄く嫌がるしお医者さんにはかかりたがらないしかといって自分でちゃんと手当てしてるようにも見えないしほらセラってなんだかどうでもいいところ意地っ張りっぽいから宿屋とかであたしに手当てされてたりするのほかのみんなに目撃されるのもいやなんだろうなーとか思ってちょっと連れ出してみたんだけど」 「そんなことだけのために依頼を受けるな!」 「だってパーティ組んでなくたってリベルダムの宿屋に来るでしょうみんな。みんなが来ない夜にこっそりなんかやってたら物凄く誤解を受けるわよー。レルラあたりが言いふらすわよー。そしたらセラのむっつりスケベの称号はもうぬぐえないものになるわよー」 それだけのために。そんなことだけのために。 心配してくれたことは分かる。が、方向性というか、熱意の入れどころというか、何かが大幅に間違っている気がする。いや、間違っている。 はじめから仲間たちに頼んで自分を羽交い絞めにしてでも宿屋で手当てすればよかったではないか。いや、それはそれで腹立たしくはあるのだが。 大体傷ついた理由も魔物を追い詰めすぎて崖から落ちそうになった彼女を押しとどめようとしてその隙に切りかかられてできた物である。元はといえば全部お前のせいだと彼は考え、はたと気がつく。もしかすると、責任を感じている?このわが道を行く無限のソウルの持ち主が? 成長したのか、していないのか。 鬱陶しいことこの上ないが、彼は少しだけ泣きたくなった。 微量の感謝と喜びとともに。 「さあ腕を出してちょうだい。ちゃっちゃとやっちゃいましょ」 「いやだ」 「なんでー。変な意地張ってると化膿して大変なことになるよ?ゾンビよ?」 「お前に任せたらミイラになる」 「ミイラとゾンビならミイラのほうが良いじゃない」 「認めるんだな、自分の腕前を認めるんだな」 「いいから!早く!腕を出す!もう私はその腕がゾンビになる過程を思うだけで夜も眠れないんだから安心させてください」 「昨日大いびきをかいてたのは誰だ」 「私です。ほら、できた!もうこんな一瞬のことをどうして嫌がるのあなたは」 「お前まで絡まって巻かれているのは気のせいか」 「だから、こういう状況をみんなに見られないように気を使って」 「もういい」 |
怪我か何かで包帯を巻いている少年が、同じく包帯を巻いている少女を後ろから抱きしめつつ、二人の包帯を絡めるMOEでしたー。 っていうかぜんぜんMOEじゃなくてすみません(毎度の謝罪) セラはあんなに態度はでかいは腹は出すわだけど顔だけは美形だわですが、段々みんなに心を許していけばいいなあと思いつつ…主人公の兄のポジションであればいいなと思いつつ… |