装備:アルバム(攻撃力320)



そういえば。
と探偵は言った。


「近頃女学生君の姿を見ないような気がするな」




何の脈絡もない榎木津の台詞にも、その場に居た面々は全く動じない。それは昔なじみの特権であり、この探偵と共存して行くには必要な能力。
その能力の最も高い男が、彼にしては不思議そうな顔をして本から顔を上げた。

「呉さんならつい先日此処へ来たよ。偶々こちらの方面に用事があって、近かったから挨拶に来てくれたそうだよ。3日ほど前だったかな」

「僕のところに来ないのはどういう話だッ!道理が通らんぞ京極堂!しかもその場に猿も馬鹿修もいたな!?京極堂だけならまだしもその面子が揃っていて僕が居ないとは全く話にならない!君らは女学生君とどんな話をしたんだ!特にそこの猿!どんな話ができたんだッ!うんそれはちょっと気になるな。だって君だし」

「ええと、僕らが学生時代の時の話をしたよ榎さん」



ああ、そうだったそうだったと合いの手を入れたのは泣く子も黙る泣かぬ子も泣くと評判の刑事。
今日のようになんのこともなくふらりと京極堂を訪れてみれば、いつぞやの女学生と京極堂とその妻、そして昼行灯の売れない作家まで揃っていたのだという。
今日も今日とて京極堂には勢揃いしている。
3日前と違うのはここには探偵がいて、女学生がいないということだけである。



その時、突然弾かれたように京極堂は顔を上げた。
半目で目の前の仏頂面を睨み付け、何を言ったんだと小さく言った。
掠れた声。


「何を言ったんだ京極堂」

「何もないさ。事実を述べただけだよ」



榎さんはその昔それは女性に人気があったということを、真実に沿って話をしただけさ

ああそういやお前、学生時代シンパの女侍らしてアホ面晒してたらしいじゃねえか

面白いからってお前の父上が、その姿を写真に写そうって言っていたけどあれはどうなったんだったか京極堂?

君のように記憶力が弱い男が良くそれを覚えていたな。僕はあのあと榎木津子爵からあの写真を戴いたんだ。自分の馬鹿息子がこんなに馬鹿な姿を記録できて嬉しいのだが、あれに渡すとなくしかねない。君が預かっていてくれないかと頼まれてね

なんで親父さん自分で保管しとかねえんだ?

なんでも、子爵夫人にことがばれたらフイルムを無駄にするなと怒られるからと言っていた
全く、変わった人たちだよなぁ



京極堂につられるかのように彼の居なかったときの思い出を話し、楽しそうに笑う人々を、探偵は睨み付けた。目の前には一冊のアルバム。
きっと、これを
彼女は。



あの少々潔癖なところがある少女はきっと、わあ、と驚いたのだろう。
きゃあじゃない。わあ、と。
そしてしばしの沈黙ののち、探偵にはあまり近付かない方がいいという判断を下したのであろう。
結果、単体の前から姿を消した。




探偵から表情が消える。




彼から言葉が消える。





そして












「なんだなんだ、女学生君は僕の人気に嫉妬かッ!それはとても可愛いじゃないか!」



しかし僕から逃れることは死んでも無理というものだッ!なぜなら神だからっ!
叫びながら外に飛んでいった探偵の背中を見送れば、屋敷は途端に沈黙に守られる。
なんだ、もう少し慌てたり、取り乱したりするかと思ったらいつもの榎さんじゃないか、と少しつまらなそうに小説家が言えば、君は本当に頭が悪くて働きが鈍いなと京極堂が返す。


あれのどこが普段通りの榎木津であるものか。
格好だけには人一倍気を遣うあの男が、被ってきた帽子も、着てきたコートも置いて、取るものもとりあえず出ていったというのに。







顰めっ面のようで腹の中では大笑いしているであろう男は言った。






「身から出た錆だよ、榎さん」



超クール(他人に無関心)な人が、唯一心を許している人とほかの人が仲良くしているのを見てイライラしている MOEでしたー!
美由紀ちゃんだけには他の人より2グラムくらい執着してくれているといいなあ、榎さん。(2gでいいのか)。楽しかったです。私は木場修が大好きです(聞いてない)

リクエストありがとうございましたー!