それは罠か 罠なのか



廊下で出会った彼女は辞書らしき分厚い書物を山ほど抱え、えっちらおっちら彷徨うように歩いている途中であった。
どうしたのかと彼が声をかけると彼女はひとまず廊下のはしにその大荷物を置き、月魅に図書室までお願いって頼まれちゃってねー、と笑顔を見せた。


「いっぺんに持っていけるよ!って言っちゃったのはいいんだけど、今すごく後悔してたとこ!今手伝ってくれる人がいたらどんな根性悪でも好きになるって思ってたとこだよ」
「なんですかその理屈は」
「女の子はねえ、九チャン。ギャップに弱いんだな。いつもは嫌な人が一回でも良いことしてくれるとコロっと落ちるってもんなんだな。胸キュンだよ、胸キュン」
「なるほどねえ」
「でも九チャンはいつも優しいからギャップってないかも」
「じゃあ今回はお手伝いしない方向で行ってみようか」
「逆逆!悪い方のギャップは逆効果!」
「じゃあいつも通りお手伝いいたそう」


彼は笑いながら彼女の荷物を引き受けるべく手を伸ばした。
が、それは彼の手に取られることはなかった。
なぜなら


「わ、わわっ」
「何やってんだよ、全く」


いつの間にか彼女の後ろに立っていた彼は、有無を言わさず辞書を持ち、自分だけさっさと図書室に向かっていってしまった。
七瀬がお前の心配して手伝ってこいってうるせえんだよなどと言い訳がましい台詞を吐きながら。







残された二人は不意の出来事に沈黙し、去っていく背中を見つめながら言った。


「やっちーコロっと落ちた?胸キュン?」


問いかける彼は笑いを堪えて。


「ふ、不意打ちだったね…」


答える彼女は目を見開いて、呆然として。




共学の制服は紺の中学か高校。昼休みの終わり、給食当番の女の子が両手で重そうに食器を片付ける→そこへ後ろから男の子が無愛想に「持ってやるよ」って軽々食器を受け取る→女の子はその後姿を見ながら「やっぱり男の子は力が強いなぁ」と、今まで何とも思ってなかった相手に胸キュン
というMOEでした。大分シチュエーション変わっちゃってすみません。
書いてるとき始終にやにやしてました駒田です(危険)
しかしMOEいただいても私の手にかかるとちいともMOEにならないのはなぜですか!(知らないよ!)精進あるのみ。

楓さんリクエストありがとうございました!