ぼうけんのしょをつくる


ああ暇だ、やれ暇だと昼のドラマを見ていた彼女がソファーの上でのびをした。
時間は2時を回った。ドラマが終わったのだろう。
こんなに仕事ないと逆に怪しいよねと彼女は言う。なるほどくんなんか弁護士界で悪評流されてるんじゃないかな。あのベンゴシに頼むと寿命が7年ほど縮みますよとか。
まあ僕の寿命も7年は縮んでるからおあいこじゃないかなと答えれば、なるほどお客さんとの連帯感を誘うわけねと納得した。寿命云々は全く否定する気がないようだが彼も全く否定は出来ない、のでそれそれ、と適当な返答を返した。適当な返答でも適当に会話が成り立つのが彼女と話す良いところである。裁判でははったりと勢いでフルスロットルで働いているこの脳みそを事務所にいるときくらいは休ませてやりたいものである。
適当な会話でも頭を使うことはあるのだが。



「それにしても暇すぎだよね。なるほどくんは天才ってお姉ちゃんは言ってたけど、実際どれぐらいの実力の持ち主なの?」

「えっ…普通じゃないかな?真宵ちゃんこそ霊媒師としてはどのぐらいの実力の持ち主なの」

「あたしはほら、中の下くらいだよ」

「もうちょっと自信持とうよ!」

「……。…中の…中くらいだよ!」

「普通だね」

それはいいね!普通が一番だねとうなずいていたが、彼女があっと声を上げた。そうだそうだ、言わなくちゃと思ってたんだけど。



「そういえばなるほどくん聞いたよ!あたしが綾里の家に帰ってる間に仕事する気なくなっちゃったんだって!?」



突拍子もないが忘れかけていた出来事に彼は思わず手にしていた新聞をぐしゃりと握り締めてしまった。何故彼女がそんなことを。
そんな様子を見て真実だと知った彼女は駄目じゃないのなるほどくん!と仁王立ちで彼を見やった。

「この真宵さんの情報網を馬鹿にしちゃあいけないよ!まあ、御剣検事が言ってたんだけど。もう手伝ってくれる人がちょっと実家に帰っちゃっただけでやる気無くすとかどういうことなの!働かなくちゃダメだよタダでさえ仕事少ないのにほんのたまに来る仕事断るとかどうしたの!あっ分かったあの御剣検事の依頼引き受けたとき結構いい額もらったんでしょ!ちょっと小銭を稼いで生活に余裕があるときこそきちんと節約しないと駄目だよ!」

そこまで一息で言い切られる。本気で怒っているわけではないらしいがその視線はかの最強の師匠であり彼女の姉にそっくりであったため彼は返す言葉が全くなかった。確かに間違ってはいない。仕事の依頼人が信用できなかったということもある。が、なんとなくやる気がでなかったのだ。お金にあまり困っていなかったというのもあることにはあるが。
そのままだらだらと脂汗をかきながら、彼はとりあえずすみませんと謝った。
それに満足したのか、よし、と顔の前で手を合わせ彼女は笑った。


「そうだ、綾里家に代々伝わるお金を貯める117の方法教えてあげようか」

「なんか微妙に少しずつ増えてるよね。その方法」

「いつでもお金儲けのことを考えてるからね、あたしたち」

「…大変だね、霊媒師も」

「これからは手広くやっていかないと世間の荒波は越えられないよ!」


世知辛い霊媒師の少女は座ったままの彼の背をばしんと叩く。
世間に2度も殺人事件の犯人の濡れ衣を着せられ、1度投獄され、姉を失い母を失い叔母に裏切られた彼女はそれでもどこまでも力強く、あっけらかんと笑って彼を激励する。どこからそんな力が湧くのか彼には分からない。
お姉ちゃんが言うにはなるほどくんは最後は絶対正しいことができる天才の器なんだから、自身持っていこう!と彼女はなぞの力強さでうなずいてみせる。彼もつられてうなずいてしまった。いつもそうだが、彼女や彼女の姉や彼女の従姉妹の強引さには恐れ入る。これが綾里の恐ろしさか。



「これからは小さなお仕事でもこつこつひきうけていかないとね!大体あたしたち基本的に殺人事件しか扱わないから世間から「あいつらが動くと人が死ぬ」とか思われてたらどうするの!それに家賃払えなくてここ追い出されたらもう屋台引いて弁護士事務所やるしか……。…。」

「そんな期待した目で見てもやだぞ!」

「ちぇっいいと思ったのに。ラーメン屋も兼業できるし。死ぬほど美味しいラーメンを食べながら死ぬほどハードな命のやり取りを」



ああ、初めて会ったときは自分のことを弁護士さんなんて呼んで、私はおねえちゃんがいないと役立たずだと涙を落としていた彼女はどこへ消えたのか。たかだか数年で彼女はなんと前向きに成長したものか!
彼は相棒の彼女の成長になんだかとっても感動し、自分も負けていられないなと気合を入れなおした。彼女の言うとおり、小さな仕事からこつこつと片付けていくことにしよう。

…とりあえず、握り締めてくしゃくしゃになってしまっている目の前の新聞を読んでから。


















あ、イトノコさんだ。こんにちはー!

あっあんたらまた事件ッスか!また犠牲者ッスか!あんたらが動くと人が死ぬッス!おとなしくしてるッスぅ!!

…やっぱり言われた。

泣くなよ!

初期Lv.100なヒロインと器だけはでっかい能なしヒーローの組み合わせMOEでした。
真宵ちゃんは冒険が始まったと同時に吹っ切れてレベル100だと思います。
なるほどくんははったりと勢いの天才ですが永遠の新人だと思います。

…4はとりあえず見なかったことにしてください(漫画版に続いたという妄想でお願いします)(笑)

リクエストありがとうございました!