まっくら森のうた



あの賢いリフィルを真似してこれまでの経過をまとめてみることにする。
コレットが体調を少しだけ崩したので、今日はこの場で野営ということになった。
このメンバーというのは、特にシルヴァラントの連中は体力を限界まで使い切ってしまうようなやからが多くて焚き火の番はいつもテセアラの人間から、そして朝方シルヴァラント組に交代というのが最近決まり事になりつつあった。まあそれも仕方ない。魔術というのは体力と集中力をとても消費するものだと聞いているし、ロイドはいつも先陣を切って敵につっこんでいく役割だから。
そして今日はたまたまリーガルと自分が当番だった。
彼なら安心だ。居眠りをするなどと言う心配は一切ないし、取っつきにくそうに見えて話してみれば面白いし。
そんなことを思いながら先に休む仲間達にお休みと声をかけ、継ぎ足し用の薪を手に焚き火のそばへ戻ってみれば、なぜか自分がいるべき場所を陣取って、うさんくさい笑顔を振りまいてひらひらと手を振る男が一人。





そばにいるリーガルに無言で訴えてみるものの、彼も無言でこう返してきた。
頑張れ。
あるいは、俺を巻き込んでくれるな。




…………





出来ることなら奴に向かって罵声を浴びせることで皆の安眠を妨害するようなことはしたくない。
しかし奴が笑っているときは大抵自分は怒っている。というか、怒るしかないようなちょっかいを出してくる。こうなれば首筋とみぞおちに一撃ずつ入れて無理矢理眠って貰うしかないかねとまで考える。考えて、狙いを定めるべく、男を見やる。




「あ、なんか言いたげな顔してる。なになに、しいなさん?俺様に愛の告白でもしたくなっ」

「…」

「無言で殴るなよもー!」




殴るに決まってるだろうよアホという言葉を無理矢理飲み込んで彼にくるりと背を向けた。
これ以上相手をしたとして、言い負かされるのは自分だ。
奴には口で勝てた試しがない。いつもいつも気がつくと言葉を失うしかない状態に追い込まれ、こちらの拳骨制裁で幕を閉じる。




もういいかげんにしたい。奴にとどめを刺すか、この場から消え去りたい。
何が悲しくてこんなアホと初めてであったその日からアホと、世界を救う旅をしなくちゃならないのか。…いや、我慢だ、我慢だよしいな。近い将来忍の頭領となる人間が、この程度で根を上げちゃあいけないよ。大体、奴だって悪い奴ってわけじゃない。それを忘れるくらいアホだけど。あいつを神子にした神様とやらにお会いしてみたいもんだね。

心の平安を保つために自分で自分に言い聞かせ、ふと、視線に気がつく。
完全に無視されていることもなんのその、奴はまだ眠る様子を全く見せず、自分をじっと見ているのだ。にやにやと、本当に脳味噌が入っているとは思えない笑みを浮かべて。



「ねえねえ、しいな。ちょっくらこっち来て」



話したいことがあるのよ、と何が楽しいのか笑顔で隣をぽんぽんと叩きながら奴が自分の名前を呼ぶ。一言で終わらせるからさ、これ聞いてくれたら俺様はもう心おきなく夢の中へダイブするからさ!というその台詞にしぶしぶ男の隣に腰を下ろした。自分もどこか甘い。ちらりともう一人の焚き火番の男を見れば、お前も人がいい、と目で言っていた。そう思うなら助けて欲しいよ、と考える。

男は小さな声で、囁いた。今までの大声が嘘のように。



あんまり大きな声では言えないんだけどね

全く、なんだってい





その瞬間耳元にぞわりとした感触。
一刻も置かず彼女の拳が彼の顎にきれいに決まった。














その場から出来る限り離れた場所に毛布を持ってふて寝を決め込んでしまった彼女を見ながら男は笑った。赤くなった顎をさすりながら。



「あーあー怒らせちゃーったっと!俺様大失敗だね」

「わざとだな」

「あ、わかる?」



手出し口出しを全くせず、ただそこにいた傍観者はやれやれと肩をすくめ、



「構いたい気持ちは理解できないでもないが、やりすぎると本当に嫌われるぞ」



神子にアドバイスしてやった。



リーガルの旦那に理解されてもねえーと嘆くふりをする男は、それでもどこか楽しそうであった。


耳にフゥっと息をかけるアレ MOE でしたー(笑)
しいなをからかいたくてしょうがない小学生のようなゼロスくん。
リーガルさんはこういうことにはノータッチだけれどいざというときは助けてくれるナイスガイだと信じております…(笑)
リクエストありがとうございました!