モンスターにハント

それで、なにがどうしたっていうの?大体突然連絡があったと思ったらいきなり飛行機のチケット送ってきてついたらついたで有無を言わさずヘリ移動で海上基地に到着って展開が急なのにもほどがあるでしょう?ちょっと買い物に出るって距離でもないのに。まあ確かにスパイ映画みたいでちょっと興奮したけど…いやそれとこれとは別ね。とにかくそれだけのことをしてまでわたしを呼んだんだからよっぽど大変な目に遭ってるのかと思うでしょう?例えば?そうね、この海上プラント上に現代では解明できない謎のウィルスが蔓延して、皆ゾンビになってしまうっていうのはどう?生き残ったあなたは数人の仲間を連れてこのプラントからの脱出を目指すのよ。迫り来るゾンビの群れと少しずつ力尽きていく仲間たち、そして最後の銃弾が尽きるというそのとき…え、それはいいから?ここからがいいところだったのに。ええとなんの話でしたっけ、ああそうだわここへ何のために呼んだのかって話よ。だってわたしに連絡してきたあなたの友達の、そうそこの若い彼、彼が"ビックボスが一大事なので可及的速やかに手を貸して欲しい"って言ってたのよ。可及的速やかよ、可及的速やか!出来うる限り全力でとにかく急いでってことよ?毒蛇に齧られようが毒蛇を齧ろうがびくともしないあなたがどんな目にあったら可及的速やかにわたしが対処する事態に陥るって言うの、それこそあなたが放射能の影響で巨大化したとかそういう状況なのかと…なに?笑えない冗談?ええと、とにかくゾンビはいなくったってわたしの本職としての仕事が必要なのかと思うでしょう。医者としての仕事よ、分かってる?今は研究職も兼任してるけどわたしはれっきとした医者です。本職は医者なのよ、知ってる?どういう意味か分かる?わたし、こうしている間にも有休を消費してるのよ。確かに休みは随分とってなかったから少佐にもいい休暇になるんじゃないかなんて言われたけど、それとこれとは話が別です。せっかく有休使ってやってきたのだから価値のある回答を求めるわ。あなたは今どんな状況にあって、わたしはどのように手を貸せばいいの。








久しぶりに会った男の元主治医は小柄な体ながら堂々と仁王立ちし、椅子に座る男を見下ろしたままようやく口を閉じた。まだ言い足りなそうではあったが、ここらでひとつ男の意見を聞いてやろうじゃないかということらしい。quackと呼ばれるに相応しい堂々とした物言いに素晴らしいブラボーだと手を叩くのは男の戦友であり、彼女を呼び寄せた張本人である。曰く、晴れて俺たちの最初の戦いは幕を閉じ、マザーベースも完成したところで俺はあんたに特別給与をやる必要があると考えた。まずは美味い飯、貪るほどの睡眠、そして心置けない友人との会話、これに尽きるだろう、とのことである。サングラスの向こう側に隠されたにやついた目とスカーフでも隠しきれないにやついた口元から不穏な空気を感じ取り、何を企んでいるのかは知らんが馬鹿なことはするなよと男が釘を刺したのも効果はなかった。何かを勘違いしているらしい戦友はどこかでどうにか手を回しかくして彼女は海を越えてマザーベースまでやってきたのである。この状況を作った戦友ははじめこそ彼女の嵐のような勢いにたじろいでいたようであったが、フェミニストを自称する彼にとってはそれも魅力のひとつとして映ったようであり男に「こんな美人な先生が一緒のミッションこなしたなんて隅に置けないなあ、さすがボス」などとほざく始末であった。あの作戦のときはお前好みのミステリアスなブロンド巨乳スパイだっていたんだぞ、と言い返しそうになり、しかしそれを言ったところで大変不毛なことに気がついて男は口を閉じた。少なくとも、この場で口に出して良い効果が発揮されるとは思えなかった。

まあ、積もる話もあるだろうから俺はこの辺で。先生はまたあとでぜひお話しましょう、俺は日本のことは詳しいですから日本好きだっていう先生とは話が合うと思いますよ!と腹立たしいほどにこやかに、軽く手まで振って去っていった戦友の背中を憎しみをこめて見送れば、部屋の中には座る男と立つ女しかいなくなる。
彼女は、あなたの友達だからやっぱり面白いわねとにこやかに戦友が閉めた戸を見やり、そして再び男に視線を下ろした。
それであなたの回答はなに?と眼が言っていた。
共にこなしたあの作戦から10年近く、好みも弱みも好きも嫌いも把握されきってしまっている男はこの状況でも諦めることはなかった。なあに、ここで失敗したところでこの口うるさい口上があと数分、数十分延長されるだけのことである。
男はままよと口を開き、このプラントは今深刻な食糧難で、魚は自給自足でどうにかなるがそのほかの物資は外から運び込むしかない。効率的に対処するにはどうすればいいか専門家の意見を聞きたかったんだがあいにくそういった知り合いが少なくてな。カズが健康面や栄養学的な意味でも医者の意見を聞くべきだと言うんで君の名前を挙げさせてもらったんだ。なにしろ頭数がいるから可及的速やかに解決する必要があった、と自分でもよくもまあ言ったもんだと思うようなことを述べた。このマザーベースでは現状、自給自足には程遠くほとんどの物資は近隣の港から運び込んでいる。所属する兵士たちの中で大きな不平不満が出たことはないが食料事情に金がかかっているのは間違いないので、嘘は言っていないだろう。個人的には愛飲する葉巻が手に入りにくいことが難点ではあるが、医者の前で喫煙関係の話をするのは馬鹿だということを彼は身をもって知っていたのでこれについては沈黙を守る。

彼女は男の言葉に黙って耳を傾け、拍子抜けするほどあっさりと肯いた。なるほど、それは大変ね。
続けて海上では末梢神経障害などの病気が蔓延しやすいこと、その理由の多くはビタミン不足によるということ、そしてこの国境無き傭兵部隊がどこの国にも依存しないようにするのであればすべては無理であってもある程度の自給自足は不可欠であると説いた。彼女は微笑んでいた。壊血病と脚気を防止するビタミンとそれを元に合成されるたんぱく質について説明しましょうか、スネーク?
ああ、ここで必要ないといったところで「聞きたいでしょう?」と始まって一方的に小難しい話をした結果「もっと聞きたい?」と笑うのだ。無線越しでは見えなかった満足気な笑顔で「聞いてよかったでしょう」とのたまうのだ。一連のそれらに男が感じるのが不満だけではないのがまた、男にとって面倒なところであった。戦友が特別給与として彼女を呼んだのは男にとって決して迷惑だけではない。
そしてどんな理由にせよ、この人の良い賢い女性は自分のために遠路遥々駆けつけてきてくれたのには間違いはないのである。
男はしばし言葉を選ぶために沈黙を守り、そして言った。




とりあえず今は君の休暇をより有意義なものにするために君の好きそうな鳥の巣に案内するというのはどうだ。




ビタミンやらについてはあとでカズに詳細説明してやってくれ、あいつは君の話を随分聞きたがっていたからなと小さな復讐をすることも忘れなかったが。















「先に言っておくけどケツァールは美味しくないわよ」
「ああ、そうだな」
「…」
「どんな味だったか知りたいか?」
「全く知りたくない」










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OPS→PW遊んだよ記念。
3とかOPSの仲良しっぷりからの4で一気に悲しいことになるのが寂しい。
鳥の巣とかいいながらティガレックスの巣につれてって「ゴジラだわ!」とかなればいい。