一勝一敗一引き分け

こんにちはあ!と相変わらず元気だけはいい挨拶とともに突然ヒオウギジムに飛び込んできた珍客はチェレンの姿を見つけると今からしばらく時間ある?!と前置きもなにもない言葉を発した。そちらに視線を向けなくても分かる。ついこの間2年ぶりの再会を果たした幼馴染のひとりである。彼女が気持ちが先走って主語も述語も接続詞もなにもない言葉を発するのは昔からのことで、その足りない言葉の端々から結論を推理するのは自分の仕事であった。(もう一人の幼馴染ときたら動物的な勘なのかなんのこともなく理解するのだがそれを回りに伝える能力が低すぎたのでベル語を通訳するのはもっぱら自分の役目だったことを思い出す。そういえばあいつは元気にしているのであろうか。あのどこまでも野生的なやつのこと、2年くらい余裕でサバイバル生活していそうである)
聞いて聞いて話を聞いてと全身から発する気をびしびしと感じながらも「これを書き終わるまでちょっと待ってもらえるかい」と先制すれば、予想外にも彼女は分かったと大変物分りのいい言葉を口にしてすとんと部屋の隅のソファに座った。てっきり分かったと口にはしつつ笑顔で後ろに張り付いて、「話していい?話していい?」とまとわりつくと思っていたのだが予想が外れた。2年の間、彼女も成長しているらしい。



しばしの静寂の後、面倒だな、と昔の口癖を脳内だけで呟いて、チェレンはペンを置いてノートを静かに閉じた。やめようと決めたわけではなかったがここ2年のうちにいつの間にか消えていたその口癖が思わず出てしまうほど幼馴染の影響力は凄まじいらしい。
溜息混じりにそれで、と話の続きを促せば"待て"の状態で待機していたらしいベルが勢い良く顔を上げそれでねそれでねと口を開いた。


「ポケモンワールドトーナメントなんだけど!」
「ああ、ヤーコンさんが張り切っていたやつか。ついに開催するんだ」
「博士がね、チェレンくんも是非出てみたらいいんじゃないかって言ってくれてね、紹介状書いてくれてね、それにこんなチャンス滅多にないしジムリーダーの勉強にもなるよねって言ってたよ。チェレンは十分すぎるぐらい勉強家だけど、実際に試してみて分かることもあると思うし、あと久しぶりにチェレンのバトル見られるのは嬉しいなって思ったんだ」
「君は相変わらず説明の合間に自分の感想を混ぜてくるよね」
「あーっと、やっぱり分かりにくかった?えっとね」


腕を組んでどうしたものかと考え出したベルに、いや言いたいことは分かったからもういいよとチェレンは声をかけようか迷ってやめた。甘やかしてはいけない。彼女は今までもこれからもポケモン博士の助手として仕事をする身、誰にでも自分の考えていることを汲み取ってもらえると思ってはいけないのである。そんな親心にも似た気持ちでチェレンが反応をうかがっていると、ベルはしばらく首をかしげた後えっと、それじゃあ簡潔に、と口を開いた。


「一緒に出かけよう?」


とりあえず出発!と輝かしい笑顔でのたまうと、チェレンの手を引いて歩き出す。引きずられながらチェレンは思う。あのね、ベル。いくらなんでも簡潔すぎると思わない?大体僕は一応ジムリーダーなんだよ?…まあジムを空けるのはなかなか心苦しいけれど、挑戦者が来たらライブキャスターに連絡してもらえばいいか。空を飛べばすぐに帰ってこれるし。思うだけ思ってすべて飲み込んで、チェレンは空いている右手で首もとのネクタイを少し緩めた。ああ、もう。ちょっと成長したと思った途端これなんだから。面倒だな。


















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チェレンとベルがかわいすぎてご飯がたくさん食べられます。