間違い探し

フレデリク、となにやら気迫のこもった声に名を呼ばれ薪を手にしたまま男は顔を上げた。男にしかわからない一部の狂いもなく美しく組まれた焚き木の隙間から見えるのは声の調子どおり気合の入った妻の顔であった。男がどうかいたしましたかリズ様、と問いかければ彼女はその一言が不満だったらしくぷうと頬を膨らませてどうもこうもないもんと彼の視界を阻むように立ちふさがった。彼女が次の言葉を続けず、ただ自分をにらむように見上げてくるのには少しばかりの疑問を抱いてリズ様?と再度名を呼んでみれば、それだよフレデリク、とようやく彼女は口を開いた。



「それ。その言い方」

「なにか失礼なことを申し上げましたか」

「逆、ぎゃく。わたしはねフレデリクと結婚してるんだよ?知ってた?」

「存じておりますが」

「じゃあその呼び方どうにかしようよ」

「よびかた?」

「いつまでわたしのことリズさまって呼ぶの」



よびかた、よびかた。脳内で幾度か繰り返しようやく呼び方と変換できてああなるほど、それが不満だったのかと男はすとんと納得した。そして納得はしたものの今更それは変えることは難しいだろうな、と考えた。自らが仕えるべき王家の末の妹姫様である彼女があっけないほどあっさりと「結婚しよう」と言い出してそれを彼女の兄である自らが仕えるべき王家の若き王がこれまたあっさりとそれを認めたために周囲が驚くほどスムーズに夫婦となったわけなのだが、それでも主従の関係が変わるわけではない。幼い頃から王家に仕え騎士となるために生き、騎士となってからもその生き方を変えることなくただただ王家のために生きていた男にとって彼女は仕えるべき主の一族であり、自分は従僕であることにはなんの疑問を挟む余地はない。はずである。
男は何度目になるのであろうかというその主張を懇切丁寧に伝えたのだが少女は男の考えなど知ったことかとばっさり切り捨てた。そしてその頬を小さな両手で押さえ男の名を再度呼び、「今すぐ思い直さないと離縁だからね」と先代の女王である彼女の姉ととてもよく似た意志の強さを男に見せつけたのであった。
















父さん、となにやら真剣な声色に名を呼ばれ途中まで確認した備品の帳簿から顔を上げた。弓や剣といった武具と食料品や雑貨類に囲まれた男が見たのは大変珍しいといわざるを得ない真剣な顔つきの青年であった。どうしましたウードさん、と問いかければ青年はその言葉に目つきを鋭くし、男の前に立ちふさがった。いつもある意味真剣なのであるがそれとは違う真直ぐな視線に少しばかりの心配をこめてウードさん?と再度名を呼んでみればそれなんだよ父さん、と青年はどこか不満そうな声を上げた。



「その言い方、どうにかならないか」

「なにか私は間違っていますか?」

「間違っちゃない、間違っちゃない。しかしだ父さん、俺は父さんの子供なんだ。知ってるか?」

「知っていますが」

「じゃあその呼び方なんとかしようぜ」

「よびかた」



この俺が世界に選ばれた伝説の勇者であっても父さんの息子であることには変わりないのだから!などといつもの調子を取り戻して青年が大変暑苦しく主張するのを父は微笑を持って見守った。ああこの青年はどうあっても彼女の血を分けた息子なのであるなあ。それでは彼女のときと同様に男に勝てる余地はないのである。







「ではなんと呼ばれたいのですか。できる限り希望に沿いましょう」

「えっそんな普通でいいよ、普通で」

「世界に選ばれた伝説の勇者であれば、ウード殿とでもお呼びすれば?」

「と、とうさん、とうさん?」

「私も離縁はされたくないですからね」

「…もしかして今、俺のことからかってる?」













フレデリクとリズは本当にかわいいですね。10年以上一緒にいてストーリー始まった時点でほぼ家族とかMOEすぎる。そしてウードは面白すぎる。何なのこの中2病(ほめてます)
彼がルキナ相手のときだけ大変まじめなのにこれまたMOEです。いとこ同士というのもまたMOE。