崖下から墓場まで

その指元に少しくすんだ銀の色を見つけてユウナは、あっと声を上げた。なんだかんだと笑顔で喋る男の左手薬指。勢い込んでその持ち主にこれ、結婚指輪ですよね!?と尋ねてみれば持ち主の男は言われて初めて気がついたかのように自らの手をまじまじと見つめ、おおおなんじゃこりゃあと驚いた声を上げた。

「ぜんっぜん気がつかなかったぜ。なんですかこれは」
「結婚指輪ですよ!」
「俺、結婚してるの?」
「してるんですよ!」
「優しくて包容力があってけじめけじめでガツンと叱ってくれる嫁さんがいるの?」
「いるんですよ!」
「わあ、そいつはすげえや」

俄然やる気がわいてきた!と元気良く跳びはねた男の肩を、はじめからやる気出せよーとヴァンがぱしりと叩いた。
悔しかったら早く君も素敵な奥さんもらいなさいよヴァン君よ、と男は腕を組み堂々とした態度を作って言い放った。今までその存在すら気がついてなかったじゃないかというライトニングからの一撃、それにそもそも優しくて包容力云々はどこから出てきたんだという追撃をくらいつつも、男は笑顔を絶やさず「そりゃ俺の嫁さんならそんな人に決まってるじゃないの」と根拠のない宣言をしてみせた。



















「でさ、城ん中逃げてたら曲がり角でどかんとぶつかったのがそこのお姫様だったわけ」
「あっははははほんとっすか!展開早いっすねえ」
「マジマジ、大真面目。しかも俺初め気がついてなくて普通にくどいちゃったしさー」
「あはははは!さすがジタン、そういうとこはちゃんと押さえてるんすね」
「そりゃ俺のアイデンティティだもんなあ。バッツはなんかねえの、そういう話」
「びっくりした話ならそうだなあ、仲間に海賊の親分がいたんだけどさ女だったんだよ」
「…は!?」
「いや俺より身長あって銛なんかも軽々振りまわして子分たちに親分!なんて言われてるからてっきり男かと思ってたら女でびっくりした」
「…いやいやいやいやそんな展開ないだろ!」
「ほんとほんと。驚いて1メートルくらい飛んだ」
「そっちのが言いすぎっす!あ、スコールはどうっすか?なんかびっくりするような話あるっすか?」


最近蘇ってきたらしい元の世界の記憶を話の種にわいわいと語り合う仲間達から少し外れて、じっと遠くを見ていたスコールがその声にぎりぎりと音がせんばかりに錆ついたような動きで振り返る。その表情に微かに浮かぶは驚愕と諦念。思わず賑やか担当3人かける言葉を失い静かに彼を見上げれば、スコールは静かに「ある」とだけ答えた。

「というより、今、できた」

彼はそのまま彼らの横に立ち、真っ直ぐにその人さし指をさす。なんだなんだと仲間達が立ち上がりその指の差す方向に焦点を合わせると少し離れた丘の上、音もなく彫像のようにそこに立ちつくす一体のイミテーション。
なんだ、敵っすか?
あいつ一体ならそんなに心配しなくても大丈夫だろスコール。
レベルもそんなに高くなさそうだしなあ。
なんだなんだと安心した戦友達が再びがやがやとその場にしゃがみ込み会話を続けようとしたところで、スコールは続けた。
あっという間に仲間中に知れ渡り、その場にいた3人に一番びっくりした大賞を与えられ家族が敵だなんてとセシルと涙させ我らがリーダーが親御さんにご挨拶をと出かけようとするくらいの影響力を持つことになる一言を、スコールは吐き出した。





「あれ、俺の父親だ」



















「ってことは俺のこの技はスコールの親父さんのモノマネだったのか!どう?俺親父さんに似てる?」
「スコールの親父さんかっけえー。うちの親父より全然かっこいいっす!」
「この調子でスコールの母ちゃんもいたりしてな!ほら女の子のイミテーションもいるし」

そういう問題じゃない、という言葉をスコールは静かに飲み込んだ。彼らに何を言っても無駄であることはよくよく理解しているからである。ただ彼らを驚かせることには成功したようなので、彼は大いに満足し、あんたもたまには役に立つなと遠い世界で元気に暮らしているだろう某国大統領にささやかな感謝を送った。









最後のほう記憶戻ってきてるってことは、ラグナだ!ってスコールが気がついてもおかしくないんじゃないかな妄想。
「僕も敵が兄さんだったときはびっくりしたなあ」「俺の場合兄弟みたいなやつがいつのまにか敵の偉い奴になってた」というのを混ぜようか最後まで迷いました。