4代目の抵抗

珍しいこともある、とユマは言った。それが何に対してどういう意味なのかの説明は一切なかったが、言われたレオはだろうなとただ一言だけ答えた。そしてどこかしら余裕を浮かべた態度でそれを流し、彼女に座るように促した。その姿を騎士団長が見ればあのレオがなんと大人になったものだと涙するに違いなかったが(そしてその言葉には流石にレオも憤るであろうが)、幸いなるかな不死の男は団員達の子供らを相手にするのに忙しくこの場に居合わせてはいなかった。ユマが音もなく横の席につき、注文した飲み物が出されるまでレオは黙ってそこにいた。その表情はなぜかどこまでも穏やかで、ただ事ではないことをユマは悟った。あのレオである。ユマが入団した時点で団長をのぞいて一番の年長者。冒険者としての素晴らしい実力とそれと比例するプライド、そして全く素直ではない性格。叱咤8割激励2割の飴と鞭を使い分け団員達を鼓舞し、団長にすら物怖じせずに意見をぶつける、あのレオである。珍しいことどころの騒ぎではない。
彼が酒場に来ること自体は珍しいことではない。同じく団員であり、彼の弟子のような位置にいる戦士の青年が中心となって団員達に引きずられるようにして酒場に向かっているところは何度も見たし、その現場に彼女が加わっていたこともある。
だがこんな風に1人で静かに飲んでいるところは想像がつかなかった。しかも凪のような表情を浮かべて。

熱でもあるんじゃないかと疑っていると、お前なあとレオがようやく口を開いた。

「僕だってこうやって飲むことくらいあるさ。あの馬鹿たちと違って飲む量は考えるけどな」

こっちは喉が商売道具だしな、と呟くように口にする。酒場の喧騒の中にあってもその声はユマにはっきりと聞こえ、商売道具に人一倍気を使っていることを思い知る。レオは昔に比べると随分大人になったよなあとは団長の言葉である。昔は自分の意見以外一切耳をかさなかったけど、今じゃみんなのまとめ役だもんな。やっぱり師匠がよかったのかなあ。自画自賛かブラッド。僕の師匠の師匠の、そのまた師匠はあんたじゃないか。あはは、俺って凄いんじゃないかもしかして。自分で言うなよださいから。いつぞやの団長との会話がよみがえり、ユマははたと気がついた。ああ、なるほど。彼の旅はもうすぐ終わるのか。


「確かに飲む量は考えてもらわないと困るね。あんたが酔い潰れても私は連れて帰らないよ」
「誰がそんなださい真似をするか」

レオは笑って返すと、手にしたグラスを口元に運ぼうとしてああそうだと手を止めた。お前には言っておかないといけないと思ってたんだ。
ユマのほうを真っ直ぐ見やり、そして僕が去ったら、と続けた。


「あの馬鹿を頼む。あの馬鹿はいい年していつまでも子供みたいな態度でいるからな。お前みたいなのがとなりで手綱握っていないと何するかわからないからな」


脳裏に浮かぶはあの底抜けの笑顔。田舎者で女好きでどこまでも自分に正直な無鉄砲の戦士。入団したばかりのころはいざ知らず、今ではレオに次ぐ騎士団の主力である。なんだかんだ言って心配なんだろう。あんな暴れ者の手綱なんて握ってたらこっちがふりまわされてしまうよと返せば、そしたら頭を狙って爆竹でもぶつけてやれと真顔で言うものだからユマは思わず笑った。ああ、なんと素直でない師弟関係であることか。まあ、弟子のほうは素直すぎるきらいがあるので、素直でないのは師匠のほうだけなのであるが。










「ああ、あと団長もついでに頼んだ。あいつもう大分ボケてきてるからな。介護が必要だろ」
「団長をついでに頼むんじゃないよ」







レオ(40)とユマ(21)。ついでにゲフャ(25)
レオはゲフャに例のお守りを渡していきなさいよ!という妄想。
20数年在団していたメンバーと別れるのはつらい。冒険者は補助+自回復持ってるから魔女より重宝しますしね。(問題はそこなのか)