★★★



あっレミさんお帰りなさい。どこへ行ってきたんですか?とこの部屋の持ち主である大学教授の弟子を自称する少年が、手元の手帳から顔を上げて大荷物を抱えて返ってきた彼女を出迎えた。教授の助手である彼女は少し疲れたように首を鳴らしてそれがねえ、と口を開く。
あ、その前にはいお土産と山ほどの林檎が詰まった袋が勢いよく置かれ、小さなテーブルはその衝撃で悲鳴を上げた。そんなことは全く気にした様子はない彼女は警察行ってきたのよ警察とテーブルのわきの古い椅子にどさりと腰を降ろした。



「突然呼ばれるんだもの、びっくりしちゃった」

「レミさん、ついに警察のお世話になるようなことを…!?」

「それがね、教授の自称弟子の少年は教授に働かされているんじゃないか、労働基準法違反なんじゃないかって警察が動き始めてるらしいのよ。いやあ誤魔化すのに参った参った」

「…えっ?!ぼ、僕のことじゃないですよね!?」

「冗談冗談。本人が好きで無償労働してるころは警察の方々も知ってると思うもの。ほんとは例の事件のことで話を聞かせてほしいってね」



敬愛すべき師はなぜかなし崩し的に事件に巻き込まれることが多い。本人はその気になれば遺跡の発掘現場に半年でもひきこもれるというのに(しかもそれを全く苦痛とせず嬉々とした笑顔で取り組めるというのに)世間はなぜか大きな事件へと彼を引きずりこむのである。しかし行くところ行くところ謎が待ち受けているので先生もまんざらではないのだろうなと弟子は思っている。なぜなら先生は名声も名誉も財産も二の次でロマン溢れる謎の発見と解決に全力を注ぎこむ人種だからである。
そんな彼が教え子から届いた手紙から問答無用で巻き込まれた例の事件こと永遠の歌姫事件は世間から見ればまだ大きな謎が残されたままであった。



「事件から1か月も経ったのに、まだ新聞に特集されるくらい謎だらけですもんね、あの事件」

「そうよねえ。当事者の私たちだって全く納得いかないことばっかりだし。大体なんで豪華客船?なぜに豪華客船で謎解き?というかそもそもなぜにそんな大掛かりなことを?…そんなこと聞かれても知るかーーーー!!!」

「どういう話を聞かれたのか大体分かりました今ので」

「ほんとあのお面の人は何がしたかったのかしらね。最早最後のほうレイトン先生への嫉妬パワーで突き進んじゃってたじゃないの。れいとん〜〜〜なんて叫んじゃって」

「お面じゃないです仮面です。けどあのときの先生は本当に格好良かったですよね!相手は立派な剣なのに、先生は鉄パイプですよ!?しかも片手で帽子を押さえながらですよ!」

「完全にハンデだよね。先生が帽子から手を離したらデスコールなんてきっと一撃よ。たぶん先生の一睨みで海に落ちていくと思うわ。れいとん〜〜〜〜〜〜!!とか叫んじゃって」

「さすが先生」

「当然よ。英国紳士としてはね」

「英国紳士ってそんなに眼力あるんですかね」

「レイトン教授は名だたる英国紳士の中では一番眼力がなさそうね」



教授にとったらデスコールなんてただの機械発明オタクなのよきっと。あんな意味不明な技術力があるならもっと他に生かせばいいのに。大体名前からして安易なのよ安易。
よほど草臥れたのだろう。ぶつぶつともはや言いがかりとしか思えない愚痴を吐き出しつつ、教授の部屋のティーポットで勝手にお茶を入れ始めたレミの後姿に相槌を打ちながら、若き教授の弟子はここにいない師を思った。先生なら全ての謎を解決できる答えを持っているのだろうか。


…なんとなくこればっかりは分からない気がしないでもなかったが。


世の中は本当に不思議なことばかりですね、先生。と心の中で密かに語りかけながら、少年は怒り狂うレミのために林檎を剥くことにしようと立ち上がった。
英国少年たるもの女性には優しくすべきです。先生の助手ですからね。
















「あ、今気がついたけど爆発に巻き込まれて鮫に追いかけまわされてそれどころか一噛み二噛みされたらしいグロスキー警部が怪我ひとつしてないほうがよっぽど大きな謎だわ」

「…今のところ一番敵に回したらいけないのはスコットランドヤードですね」






-----
デスコールが本気で何をしたかったのかよくわからないよ!しかし
「れいとん〜〜〜〜!!!」は本気で笑いました。中の人万歳。

リクエストありがとうございました!